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月曜日・・・
法律事務所の朝のミーティングでの最後で・・・
「私事ですが、本日の出勤前に悠さんと婚姻届を提出してきました。」
凛さんが・・・先生が、みんなに報告をして拍手に包まれた。
凄い大きな大きな拍手でみんなから安堵の声が漏れるどころか叫ばれるくらいで。
長い長い拍手の間、凛さんも私もみんなにお礼を言って・・・
「この度悠さんと無事に夫婦にはなりましたが、これからも誰も取らないようにお願いします。
また、悠さんに何か不穏な空気が出ていると分かった方は、すぐに僕に知らせるようご協力お願いします。」
先生がそんな爆弾を落として・・・
「葛西先生!!今不穏な空気出てるから!!」
と、女の弁護士先生が叫び笑いに包まれた・・・。
事務所の人達のお陰で不穏な空気は広がらずに済んだ。
*
約1年後 8月
「お母さ~ん!!
私一旦休憩~!!!」
そう言ってからソファーに寝転がりテレビをつけた。
お母さんが笑いながら私のお腹にタオルケットを掛けてくれ・・・
「おかあさんがやるから、はるかはよこにななってて!!」
そう言って、ゆっくりした動きではあるけど手際良く段ボールの中を整理していってくれる。
「悠ちゃん、本当に無理しないでね?」
凛さんが物凄く不安そうな顔をしながら私を見て・・・大きくなった私のお腹を優しく撫でてくれた。
あの後、数ヵ月後に妊娠をした。
安定期中に結婚式まで大々的にあげ、お母さんはそれに張り切り驚くほど回復してきた。
そして、私のお腹が大きくなるにつれお母さんはどんどんしっかりしてきて・・・
障害者手帳は返還した。
国民の税金により、ありがたく私達家族は生活を送ることが出来ていた。
健常者に戻れてはいないけれど、ゆっくりでも1人で色々なことが出来るようになったお母さん。
そして、妊娠中の私のお世話や・・・私のお世話や私のお世話・・・。
アパートの跡地に新居を建てるため、私の実家に凛さんも一緒にしばらく住んでいた。
お父さんは家事をやってくれ、それは凛さんも。
凛さんについてはハナビのお世話まで楽しそうにしていて、ハナビは凛さんにベッタリだった。
私の段ボールを片付けてくれているお母さんを見ながら文句を言う。
「二世帯住宅にすればよかったのに~!!」
「すぐちかくにすんでるから、いつでもくるから!!」
凛さんも私も、お父さんとお母さんに二世帯住宅を何度も提案したのに、絶対に首を縦に振らなかった。
親なりに色々と考えてくれたことなんだろうけど・・・。
でも、アパートの跡地は土地が広くて。
一軒家を建てるには大豪邸になってしまうので、私は断った。
掃除するのとか絶対に大変だし。
そしたら凛さんが考えてくれ、コタ・エステート株式会社という大手の不動産会社の社長さんと打ち合わせをした。
先生が顧問にもなっている不動産会社で、大企業中の大企業である藤岡ホールディングスの子会社。
凛さんが大手法律事務所に勤めていた時のクライアントで、凛さんの独立にも手助けをしてくれたそう。
あの立派なビルも少し賃料を安く貸してくれている。
藤岡グループの中でこの社長さんの会社だけは、独立した凛さんの事務所に顧問先を変えてくれた。
そんな社長さんと考えてくれた結果・・
ピンポ────────ン
インターフォンが鳴り、1番ゴロゴロしていた私が玄関に向かった。
玄関の扉を開けてみると・・・
「元木さ・・・あ、葛西さん!!」
前の法律事務所の所長が訪ねてきてくれた。
所長に笑いながら言う。
「悠でいいですよ!」
「・・・悠さん、引っ越し作業手伝おうか?
あとこれ、差し入れね?
奥さんが妊娠中はスイカを食べていて。」
「わざわざカットスイカを選んだあたりが、流石所長です!
私がスイカを切るのも面倒なことを分かってくれていますね!」
「それはそうだよ、3年間は僕の優秀な秘書だったからね。」
所長がそう言ってくれ嬉しそうに笑っている。
「悠さんのお宅が引っ越し作業だって聞いたから、来られる人達は手伝いに来てるよ?」
「嬉しいです!ちょっとご挨拶に行こうかな・・・。」
その時、凛さんが玄関まで来てくれ所長と挨拶をしてくれた。
凛さんに伝え、前の事務所のみんなに挨拶をしにいくことにした。
2階建ての建物、その2階部分は我が家。
凛さんと私・・・そしてお腹の子のお家。
その我が家を出てから階段を降り1階へ。
そこには・・・
前の法律事務所が・・・。
我が家の1階部分に移転をしてきた。
凛さんが声を掛けてくれ、都内のオフィスビルから住宅街に移転をした。
ゆっくりと法律事務所の扉を開けると・・・
数人の弁護士さんがお客様とお話をしていて・・・。
「悠ちゃんのお宅の引っ越し作業を手伝いに事務所を開けたら、近所の人達が数人アポなしでいらしてね。」
「平日はなかなか来られない方もいますからね。」
「そうなんだよね。
日曜日もたまには開ける必要がありそうだなと思ったよ。
企業だけを相手にするだけではないからね。」
基本的には企業法務を担当していた法律事務所だったけれど、この住宅街に移転をしてから多くの個人のお客様から問い合わせがあるらしい。
すぐに都心にも行けるから企業のクライアントも変わらず対応していて・・・
そこに、この地域の個人的な問題も解決する優しい法律事務所としてジワジワと口コミが広がっている。
それが嬉しくて笑っていると・・・
「悠、こっちにいたのか。」
と・・・。
振り返ると・・・
「お兄ちゃん!!!」
お兄ちゃんが昔のように元気な姿でニコニコと笑っている。
所長にも挨拶をしてくれ、私は一旦法律事務所を出る。
そして・・・
法律事務所の隣の施設へ・・・。
そこには・・・
お兄ちゃんが新しく施設長を任されたNPO法人の障がい者施設が。
日曜日だけれど、多くの障がいのある子どもから大人の方達、そしてその家族の方達が。
「悠が引っ越し作業するって言ったら、今日はこんなに集まった!!!」
それには笑いながら喜び・・・
「じゃあ、みんな手伝いよろしく~!!
私お腹こんなんだし、テレビ見てゴロゴロしてるね?」
産休に入り仕事を休んでから、よくこの施設には顔を出していて今ではみんな友達。
みんな何かしら障がいがあるのに、何故か私のお世話をせっせとしてくれご家族の方が毎回驚いている。
「ご家族の方は施設の方で談笑しててくださいね!!」
「悠が仕切るなよ!!!」
お兄ちゃんに突っ込まれるとみんなが笑っていた。
そんな中、1人の女性が私の前に歩いてきた。
「悠さん!!」
前に凛さんの法律事務所で私が口出ししてしまった女性。
3人目のお子さんに障がいのある方。
あの後、旦那さんの不貞の証拠がすぐに見付かり旦那さんからも女性からも慰謝料がもらえた。
旦那さんからの養育費も今のところ滞りなく支払われている。
凛さんである“先生”が、書類だけではなくかなり厳しいことを笑顔で言っていて、そのギャップが相当怖かったからだと思う。
「これ、差し入れです。
子ども達の手作りで申し訳ないのですが、どうしても手作りを渡したかったようで。
クッキーなんですけど。」
「手作りクッキー大好きです!
自分では絶対に作らないので嬉しい!!
お兄ちゃんが結構作ってたんですよね!!」
そう言って笑いながらクッキーを1枚食べると・・・
驚いて女性を見る・・・。
「・・・はい、あの・・・お兄様にお手伝いしてもらって・・・。
あの・・・本当に申し訳ないんですけど、あの・・・」
「え~!?カップルなんですか!?」
「・・・カップル・・・、そうです・・・ね、はい。
本当に申し訳ありません・・・。」
なんで謝っているのかよく分からなかったけど、障がいのある方達と元気に話しているお兄ちゃんを見る・・・。
「昔から子どもが大好きで、私の友達ともよく遊んでくれて人気者でした。
でも、お兄ちゃんはあまり強くないですけど・・・」
そう言いながら女性を見ると・・・
しっかりした顔でお兄ちゃんのことを見ていた。
「兄のことをよろしくお願いします。」
そう言ってお辞儀をした。
お腹も大きくなっているけれど、なるべく深く深くお辞儀をした。
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