9

──────────


───────


──




俺の足元にしゃがみ、悠ちゃんが黒くてまだ少し小さなネコを両手で撫で回している・・・




「ハナビ~!!!」




新しいネコを飼ったとは聞いていた。

今年の4月、お父さんが定年退職をしたからと悠ちゃんが一人暮らしを始めた。

その直前にお母さんと散歩をしていた時、また子ネコを保護して飼い始めたと。




「ハナビか・・・。」




名前も知っていた。

でも、見た目は違うけど実際にネコを撫でながら「ハナビ」と悠ちゃんが呼ぶと、“花火”のことを思い出す。




たった1度しか会うことがなかった“花火”のことを。

死んでしまう時に会った“花火”のことを。




怖かった。

俺が今まで生きてきた中で1番怖かった。

悠ちゃんのお母さんがいなくなってしまった時より怖かった・・・。




目の前で“花火”の花火の音が終わりそうになっているのを見て、どうしようもなく怖かった・・・。




そんな俺を、悠ちゃんは苦笑いで見上げた。




「前のネコは漢字で“花火”で、この子にも同じ名前って変かな?」




変ではないけれど、少し複雑な感情だった。

俺も母さんからそうやって名付けられたから。

“凛”さんの“凛”の文字を取って、そう名付けられたから。




それが嫌なわけではないけれど、少し重荷ではあった。

凛さんの分まで幸せにならなければ・・・。

そんな風に思ったこともある。




悠ちゃんは俺の足元で、“ハナビ”を見ながら言った・・・。




「カタカナだけど同じ名前にして・・・。

“花火”の代わりっていうわけではなくて、“花火”の続きをこの“ハナビ”が鳴らせるように。」




「“花火”の続きを・・・?」




「うん、“花火”の花火の音の続きをこの“ハナビ”が鳴らせるように。」




そう言って悠ちゃんが俺を見上げ・・・




俺は自分の胸に片手をのせた。




鳴っていた・・・。




俺の花火の音が鳴っていた・・・。




“凛さん”の代わりではない、でも“凛さん”の花火の音の続きかもしれない・・・。




続きなら良い。

続きなら嬉しい・・・。




花火の音が例え終わっても、また新たな花火の音が鳴るのだと思えるから・・・。








凛太郎side.......

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る