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「良い女見付けたね。」
仕事の後、今日は何気なくスナックに寄ったら急にそんなことを言われた。
この前は事務所の人を数人連れてきたけど、今日は1人でフラッと寄ってしまって・・・。
「今の彼女?
会わせたことないけど。」
「・・・アンタ、バカだね~。」
「何が?」
「随分可愛い女の子入れたね。
秘書なんだって?」
「ああ、悠ちゃん?
まだ数日だけどよくやってくれてるよ。」
「好きな女1人見付けられなくて何してるんだよ。
せっかく生んでやったのに。」
急に“母さん”からそんなことを言われて驚く・・・。
驚くけど・・・
「凄い探してるんだよね。
何をって言われたらよく分からないけど、とにかく凄い探していて。
告白されたら付き合うようにしているんだ。」
「アンタ、バカだね。
そんなにバカだったの?」
“ママ”なのか“母さん”なのか分からない目の前の女性からそんなことを言われる。
「アンタは弱い男なんだから、強い女にしな。
普通の女じゃダメだよ、強い女に。」
「強い女か・・・。
女の子ってみんな強くはないからね。
母さんくらいじゃない?」
「バカだね、女こそ強くなるんだよ。
女の方がいざという時に強くなれるんだよ。
その強さが普通じゃない女にしな。」
「そうなのかな?」
「男なんていなくても1人でも生きていける女にしな。
そしたら凛太郎1人増えても、子ども1人2人増えても、ちゃんと進んでいける女だからね。」
“心が強い”
よく父さんに・・・父さんだけではなくよく言われる俺のことを、母さんだけはこう言う。
でも、母さんの言うとおりで。
俺は強くはない。
でも・・・
「そこまで弱くもないけどね。」
*
そして、俺は36歳になった・・・。
「また数日連絡が返ってこないんだよね。」
事務所の部屋の中、仕事をしている悠ちゃんに今回も相談をする。
悠ちゃんは仕事の手を止めることなく・・・
「数日後に連絡が来るんじゃないですか?
いつもそのパターンじゃないですか。」
「そうなんだけど・・・。
もう終わりかな。」
「今回の彼女さんは、飲み会には来ましたけど普通そうでしたけどね。」
「それが普通じゃなくて。
ホテルもスイートルームじゃなくていいって言うし。」
俺がそう言うと悠ちゃんが急に黙って・・・
顔を真っ赤にしている。
「顔赤いけど大丈夫?」
心配になり立ち上がり、悠ちゃんの所へ・・・。
少しだけ肩に手をのせて悠ちゃんの顔を見ると、悠ちゃが少し俺の手を見て・・・
真っ赤な顔で、今にも泣きそうな顔で・・・
そんな顔で俺を見上げようとして途中で視線を逸らした・・・。
たまに・・・本当にたまに、悠ちゃんはこんな顔をする。
この顔が正直物凄く可愛くて・・・物凄く興奮してしまう。
「早退してもいいからね?」
「・・・大丈夫です。」
その言葉を聞きながら、少しだけ考えていた。
いつも少しだけ考えていた。
俺のことが好きなのかな?と、いつも少しだけ考えていた。
でも、気付かないふりをしていた。
中学1年生の頃から知っているし、そういう風には見れなかった。
悠ちゃんが来てからそれを1度言った時、話を逸らされた。
それにはすぐに気付いた。
こういう仕事をしているしそういうのはすぐに分かる。
分かるけど・・・。
真っ赤な顔をしながらも仕事を続ける悠ちゃんを見て、やっぱり気付かないふりをしていこうと決めた。
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