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「良い女見付けたね。」




仕事の後、今日は何気なくスナックに寄ったら急にそんなことを言われた。

この前は事務所の人を数人連れてきたけど、今日は1人でフラッと寄ってしまって・・・。




「今の彼女?

会わせたことないけど。」




「・・・アンタ、バカだね~。」




「何が?」




「随分可愛い女の子入れたね。

秘書なんだって?」




「ああ、悠ちゃん?

まだ数日だけどよくやってくれてるよ。」




「好きな女1人見付けられなくて何してるんだよ。

せっかく生んでやったのに。」




急に“母さん”からそんなことを言われて驚く・・・。

驚くけど・・・




「凄い探してるんだよね。

何をって言われたらよく分からないけど、とにかく凄い探していて。

告白されたら付き合うようにしているんだ。」




「アンタ、バカだね。

そんなにバカだったの?」




“ママ”なのか“母さん”なのか分からない目の前の女性からそんなことを言われる。




「アンタは弱い男なんだから、強い女にしな。

普通の女じゃダメだよ、強い女に。」




「強い女か・・・。

女の子ってみんな強くはないからね。

母さんくらいじゃない?」




「バカだね、女こそ強くなるんだよ。

女の方がいざという時に強くなれるんだよ。

その強さが普通じゃない女にしな。」




「そうなのかな?」




「男なんていなくても1人でも生きていける女にしな。

そしたら凛太郎1人増えても、子ども1人2人増えても、ちゃんと進んでいける女だからね。」




“心が強い”

よく父さんに・・・父さんだけではなくよく言われる俺のことを、母さんだけはこう言う。




でも、母さんの言うとおりで。

俺は強くはない。




でも・・・




「そこまで弱くもないけどね。」


















そして、俺は36歳になった・・・。




「また数日連絡が返ってこないんだよね。」




事務所の部屋の中、仕事をしている悠ちゃんに今回も相談をする。

悠ちゃんは仕事の手を止めることなく・・・




「数日後に連絡が来るんじゃないですか?

いつもそのパターンじゃないですか。」




「そうなんだけど・・・。

もう終わりかな。」




「今回の彼女さんは、飲み会には来ましたけど普通そうでしたけどね。」




「それが普通じゃなくて。

ホテルもスイートルームじゃなくていいって言うし。」




俺がそう言うと悠ちゃんが急に黙って・・・

顔を真っ赤にしている。




「顔赤いけど大丈夫?」




心配になり立ち上がり、悠ちゃんの所へ・・・。

少しだけ肩に手をのせて悠ちゃんの顔を見ると、悠ちゃが少し俺の手を見て・・・




真っ赤な顔で、今にも泣きそうな顔で・・・




そんな顔で俺を見上げようとして途中で視線を逸らした・・・。




たまに・・・本当にたまに、悠ちゃんはこんな顔をする。

この顔が正直物凄く可愛くて・・・物凄く興奮してしまう。




「早退してもいいからね?」




「・・・大丈夫です。」




その言葉を聞きながら、少しだけ考えていた。

いつも少しだけ考えていた。

俺のことが好きなのかな?と、いつも少しだけ考えていた。




でも、気付かないふりをしていた。

中学1年生の頃から知っているし、そういう風には見れなかった。




悠ちゃんが来てからそれを1度言った時、話を逸らされた。

それにはすぐに気付いた。

こういう仕事をしているしそういうのはすぐに分かる。




分かるけど・・・。




真っ赤な顔をしながらも仕事を続ける悠ちゃんを見て、やっぱり気付かないふりをしていこうと決めた。

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