3

振り返ると葛西だった・・・。




「日曜日にスーツなんて着て仕事してないで、真知ちゃんの傍にいてやりなよ。

真知ちゃん子どもとぶつかって、眼鏡が飛んで必死に探してたんだよ!?」




そう睨み付けながら言ったら・・・

葛西がそれはもう心配そうな顔をして真知ちゃんの傍に立ち・・・優しく優しく抱き締めていて・・・。




去年の12月にも思ったけど、なんというか・・・凄い優しい男だった。

言い方や口調は悪いんだけど、よくよく考えると優しい発言なのかなと・・・。

よくよく考えないと分からないような優しさだけど、そんな男だった。




「念のため病院行ってきてよ。」




「そうだな・・・ありがとな!!!」




「葛西から感謝されるとか気持ち悪いから。」




「なんだよ、真知子のこと助けてくれた奴に文句言うわけねーだろ!!

あと兄貴の彼女だろ!?」




「違うから・・・。」




「はあ!?まだ付き合ってねーの!?

兄貴何してんだよ!!!」




葛西が驚きながら叫ぶと凛さんが笑った。




「婚約者だね。

これから挨拶に行くんだよ。」




「そういうオチかよ!!!」




別にそういうオチではないのにそういうことになってしまった。




「家で病院に連絡してから行く、本当にありがとな!!」




真知ちゃんの腰に手を回した葛西が私達にそう言って歩き出した。

真知ちゃんは必死にこっちを見てきて・・・




「あの・・・っ、よかったら今度うちに遊びにきてください!!」




「え・・・私?」




「はい!悠さんだけで!!」




「ウケるんだけど、凛さんは!?」




「凛太郎さんは・・・。」




真知ちゃんが困った顔でそう言った時、葛西が嬉しそうな顔で大笑いをした。




真知ちゃんと葛西と別れた後、凛さんとまた歩いて行く・・・。

凛さんは無言になっていて・・・。




「やめるなら今だよ?やめる?」




「・・・そうした方がいいのかな。」




そんなことを言ったので、少し多めに息を吸って立ち止まった。




「うん、やめよう。

ここまで来てくれたから充分だよ。

凛さん、ありがとう。」




凛さんに笑いかけてお礼を言った。

だって、本当に充分だった。




「全然嬉しくなかったけど、凄い嬉しかったよ!!」




「俺はきっと良い男ではないから・・・。

悠ちゃんを幸せに出来ないだろうし、オジサンだからね・・・。」




急にそんなションボリしだして・・・。

背中を丸めてションボリしていて・・・。




「凛さん面白すぎるから!

いつもの“先生”と違いすぎて!!」




「俺・・・真知ちゃんに嫌われているみたいで。」




「ね!どうしたの?」




「分からないけど、最初からで・・・。

真知ちゃんに嫌われるっていうことは、俺は良い男ではないんだよね。

真知ちゃんは俺が取締役に就任している会社の人事部長で。

どんなにブラック企業でもガンガン働ける人を採用出来る凄い子なんだよね。

離職率も0のままだし・・・。」




そう言って今にも泣きそうな顔をしている。




「先生は女を見る目が全然ないし、女にお金ばっかり使うし、数日間連絡がないだけで自然消滅にするし、確かに良い男ではないんじゃない?」




私が正直にそう言うと凛さんがショックを受けた顔で私を見ている。

こんなの笑ってしまう。




「でも私は、そんな“先生”からの言葉でしっかりする時はしっかりしてこられた。

“先生”のお陰でなんとなく乗り越えられてきた。

それに・・・」




不安そうな顔で私を見下ろしている先生を見上げる。




「再会して、当たり前だけど好きになったよ?

すぐに好きになった、男の人として。

だって格好良いもん。

あんなの好きにならない方が無理でしょ!」




「そうだったの・・・?」




「そうだよ!!

なのに先生は女を見る目がなさすぎて!!

頑張ろうと思っていたのに頑張れなくなったよ!!

私を選ぶってことは、私は良い女じゃないってことなんだもん!!」




「そうだよね、ごめん・・・。」




ションボリし続けている凛さんを見て、やっぱり笑えてくる。




「分かった!!

良い女でも良い男でもない2人で結婚しよう!!」




凛さんが驚いた顔をした後、またすぐに不安そうな顔になる。

“先生”の“せ”の字も全くないくらいの凛さんには笑うしかなくて。




“しっかりする。

今は、しっかりする。”




凛さんがこんな感じなので、私がしっかりすることにした。




そして気付く・・・




「手、何でこんなに震えてるの?」




震えている凛さんの手を見てその手をソッと握る。

そしたら凛さんが私の手を強く強く握ってきた。




「怖くて・・・。」




「私と結婚出来ないと思うのが?」




「それも勿論怖いけど・・・。

花火の音が終わるのが怖くて・・・。」




「それは怖いよね。

でも凛さん健康診断オールAなんでしょ?」




「うん、俺は・・・。

でも真知ちゃんのお腹の中の子の花火の音のことを考えたら凄く怖くて・・・。」




凛さんが小さな声で呟いた後、私を抱き締めた・・・。

道っぱたなのに抱き締めた・・・。




そして大きく深呼吸をして・・・




「しっかりする・・・。

今は、しっかりする・・・。」




そう自分で言ってから、まだ少し震える手で私の手を引き歩き始め・・・。




凛さんがこんな感じなので、引き続き私もしっかりすることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る