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それにはすぐに首を横に振った。




「今の事務所に不満もなければ、所長もみんなも好きだから。」




「勤務状況は?年収は?

今の所より良い条件を出すよ。」




これには驚き・・・




「そんなに?なんで?」




「俺の事務所に良い人がいてほしいからね。

しっかりする時にしっかり出来る人が欲しい。」




「それこそ・・・懐かしいね・・・。」




“葛西”がそう言った。

あの花火大会の日から私をしっかりさせてくれた“先生”が、そう言った。




「お母さんはその後どう?」




「悪くはなっていませんが、ある一定の所までしか回復はしていませんね。」




それはお父さんが甘やかすのも原因だと思っている。

お父さんがたまに入院している時の方が、お母さんはしっかりしているし色々とやろうとしている。




私のお世話をしようとしている。

私は末っ子だから。




“先生”を見ながら言う。




「定時で帰ることは可能ですか?」




聞いた私に、“先生”は変わらない笑顔で頷く。




「お給料よりも何よりも、定時で帰れるなら“先生”の事務所に行きます。」




散らかそうと思う。

毎日勤務になってからお父さんの帰りは安定していて、ピッカピカで整い過ぎている家を。




散らかして散らかして、散らかしまくろうと思う・・・。













「お父さん!!ウロウロしないでよ!!

今ご飯食べてるの!!!」




「ここの汚れが取れないんだよな~。」




「誰も気にしてない!!!

お母さ~ん!!お父さんとテレビ見たいって言ってたよね!!?」




お母さんは私の協力者なので、お母さんが笑いながらゆっくりとした動きでテレビをつけた。




「お父さん!お母さんがお父さんとイチャイチャしながらテレビ見たいんだって!!」




座って欲しかった。

常にしっかりしているお父さんに、座って欲しかった。

お母さん命のお父さんなのでお母さんからの話なら聞く。




力を抜ける時に抜かないと、疲れてしまう。

当たり前だけど疲れてしまう。




散らかす・・・。

私は散らかす・・・。




末っ子の私だけが“汚部屋”だった。

そんな私だけがあの状況でもなんとなく乗り切れた。




散らかすことも大切。

散らかっていることも大切。




食器もダイニングテーブルにそのまま置き、私もお父さんとお母さんが座るソファーの所に。




「ド~ンっっっ!!!」




お母さんを挟むように私も座った。




「悠!食器!!」




「そんなの後でいいじゃん!!

お父さんヒョロヒョロなうえにチャキチャキしすぎだから!!!

テレビ見たらお母さんがやってくれるからいいの!!」




怒りながら立ち上がろうとしたお父さん。

そんなお父さんの手をお母さんがゆっくりと少し掴んだ。




「てぇれ、び、みよう?」




お母さんにそう言われお父さんは怒りながらもまた座った。




それを確認してからまたテレビを見て大笑いをしていると、“花火”がお母さんの膝の上に飛びのった。

お母さんがゆっくりとぎこちない動きで“花火”を撫でる。




なんとも幸せな時間だった。




こういう時間が大切なんだと思う。

なんでもないテレビを見て、頭を空っぽにして笑う時間も大切なんだと思う。

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