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そう思いながら家までの道・・・薄暗くなった道を歩いていた・・・。




そしたら、その道に・・・




なんだか茶色い物体が・・・。




小さくて茶色い物体が・・・。




何気なく確認した。

軽い気持ちで何気なく・・・。




そして、驚いた。

ネコだった・・・。

小さなネコが倒れていた・・・。




迷うことなくしゃがみこみ、少し触って確認をする。

まだ温かくて・・・少しだけ私の方を見たようにも思う。




どうしたらいいのかは分からないけど、とにかく抱き上げて胸に抱き締めた。




でも動物を飼ったことがないのでどうしたらいいのか分からず、ネコを抱き締めたまましゃがみこんでいた。




「アンタ、どうしたの!?」




そしたら・・・女の人の声がした。

振り返ってみると派手なオバサンで・・・。




「葛西さん・・・。」




葛西先生のお母さんだった。

話したことはないけど近所では有名だったから知っていた。




「近所の子?」




「はい、向こうのマンションに住んでいて。

凛太郎さんがバイトしていた塾で、先生から教えてもらっていました元木といいます。

兄は剣道部で先生の後輩でもあって。」




私がそう答えると先生のお母さんが笑顔になった後、私の胸に抱えたネコを見た。




「ネコか。」




「はい・・・。」




「可哀想だけど、もう無理かもね。

かなり小さいし・・・。」




そんなことを言われてしまい・・・




心臓の音が大きく大きく鳴る・・・。




ネコの心臓の音ではなく、私の心臓の音が・・・。




それを聞きながら小さな小さな茶色いネコの胸に耳をつける。




微かに音がする・・・。




微かに音がする・・・。





「まだ花火の音が鳴っています。」




「花火?」




「心臓の音・・・まだ、花火の音は終わっていません。」




小さな小さな茶色いネコを抱き締める。




「この子の花火の音が終わるまで抱き締めています。

死んでしまう時、きっと愛する人から抱き締めて欲しいと思うから。

・・・私でごめんね。」




いつも思っていた。

お母さんが意識不明で運ばれた時、きっとお母さんはお父さんに抱き締めて貰いたかったと。




いつもいつも思っていた。

でも、あの日のことを誰も話さない。

あまりにも辛い出来事で、まだ誰も消化出来ていない。

まだ続いているからだと思う。

思い出ではなく、まだ辛い大変な出来事の延長として続いているからだと思う。




だからお母さんに確認したことはないけど、きっとお母さんはお父さんに抱き締めて貰いたかったはず。




だって、お母さんはお父さんのことが大好きだから・・・。




先生のお母さんにお辞儀をしてから道の端に寄り、小さな小さな茶色いネコを見下ろしながら抱き締める。

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