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それから数日後だった・・・。
夜中ではなく夕方、私がお母さんと散歩をしていたらお兄ちゃんから電話が掛かってきた。
「もしも~し!!」
『悠・・・。』
「うん、どうした?」
『俺、就職するから。』
「え・・・よかったね。
でも突然だったね。」
これには驚くし、あんな状態で働いて大丈夫なのか心配にもなる。
『この前、ごめん・・・。
悠が1番大変なはずなのにあんなこと言って。』
「仕方ないよ、お兄ちゃん具合が悪いんだし。」
『・・・ごめん。
俺、それもずっとしんどくて。
悠に全部をやらせて俺1人逃げ出したのもしんどくて。』
「それも仕方ないことだから。」
『うん・・・。
でも、しんどくて・・・。』
「そっか。妹って可愛いしね。」
私がそう言うとお兄ちゃんは小さく笑った。
『家の状況とか俺の状態を分かったうえで、採用してくれた。
NPO法人で、何らかの障害がある人達のために働く。』
「・・・そっか。
その、お兄ちゃん大丈夫なのかな?」
『家で何も出来ない分、その分をそういう人の為に働きたいと思って。』
そんな言葉を聞けて、私は頷いた。
「何かあったらすぐに連絡してね?」
『そうならない為に頑張るよ。』
「頑張らなくていいの!!!
頑張りすぎなんだから、なんとなくやっていけばいいの!!!」
最後にお兄ちゃんの笑い声を聞いてから、電話を切った。
*
一難去って、また一難・・・。
大学に入ってすぐ・・・お父さんの症状がまた悪くなり入院となった。
入院の手続きをした後、家に帰り待っていたお母さんに怒る。
「お父さんって何であんな感じなの!?」
私が叫ぶとお母さんが苦笑いをしている。
「あれじゃあ、また悪くなるに決まってるじゃん!!!
“お母さんが可哀想だから”とか言って、お母さんが出来そうなことまで全部やるし!!!
それでお母さんが出来なくなった方がもっと可哀想なんだけど!!!」
「ぉとさ、なんでも・・・できるから、ね。」
「それでまた具合悪くなってたら意味ないし!!
ジッと座ってること出来ないよね!?
休んだら死ぬと思ってるの!?何なの!?
それで死ぬなら私は死にまくってるから!!」
そう叫びながらソファーに座りテレビをつける。
「あ!今日これやってる~!!
お母さん、ポテチ持ってきて~!!」
お父さんがいる時にこれをやると怒られるけど、お父さんがいないのでまたお母さんに甘えられる。
だって、お母さんは出来るし。
すぐそこの棚から持ってくるだけなのに時間は掛かるけど、出来るし。
ポテチを持ってきたお母さんが私の隣に座る。
そのポテチを受け取らず寝転がりお母さんに言う。
「開けられる?やってよ!!」
そう言ってみると、お母さんがポテチの袋を開けようとする。
でも・・・開けられない。
「そうじゃなくて、縦には?」
お母さんが今度は縦に開けようとする。
でも、開かない・・・。
ぎこちない手つきで必死に力を入れて・・・
そしたら、バンッと・・・開いた。
開いたはいいけど、開きすぎて袋が裂けた。
ポテチがソファーや床に散らばったのを見て、私は大笑いした。
「開けられたじゃん!!」
「できて、な・・・。」
「いや、これは開いたって!!
お母さん、ありがとう!!」
そう言って、散らばったポテチをテレビを見て笑いながら食べていく。
そんな私に笑いながらお母さんが片付けていこうとする。
「いいよいいよ、そんなことしなくて!!
このまま食べて、最後にティッシュでササッと拭くから!!」
そう言っているのに、お母さんはぎこちない手でポテチを1つずつ拾い・・・
なんと掃除機までかけていた。
「ウケる!!!掃除機かけられてるじゃん!!!」
そんな話をした。
だって、私の中で面白かったから。
そんな話をした。
付き合って2日目の彼氏に、そんな話をした。
そしたら彼氏が固まって・・・
「悠の家って、そんなに大変だったの?」
「・・・知らなかったの?」
「知らないでしょ、言ってこなかったし。」
これには少し驚く。
「でも、このサークルって附属生も多いし私の友達もいるし。
ごめん、知ってるのかと思ってた。
高校の人達って結構知ってるから。
私たまに学校休んだり、遅刻も早退も多かったし。」
「そうなんだ・・・。
ごめん、聞いてなかった。」
「それは、私こそごめん。」
お互いに謝り合った後、無言のまま・・・。
そして当然だけど、次の日にフラれた。
沢山謝られて・・・私も沢山謝った。
だって、知っているのかと思っていた・・・。
言わなかった私が悪かった・・・。
“俺には重い”
そんな風に思われてしまった。
そんな風に言われてしまった。
私自身ではなく、私の大好きな家族のことを・・・。
“重い”
そんな風に思われて言われてしまった。
つい数日前まで私に猛アプローチしてくれた男子で、一緒にいて楽しい人だったから良いかなと思っていた彼氏から・・・。
事前に言わなかった私が悪い。
むしろ可哀想なことをしてしまった。
あんなに謝らせて、可哀想なことをしてしまった。
悲しくはなかったし寂しくもなかった。
まだ3日目だったし、別にそこまで好きだったわけではなかったのだと思う。
でも、私の家族は“重い”のだと改めて知った。
友達にはよく話しているし、それでもみんな仲良くしてくれていて。
同情している感じではなく、普通な感じで・・・。
だから、そんな感じで彼氏も作ってしまった。
彼氏はそんな感じで作ったらいけないのだと初めて知った。
「彼氏とか、別にいらないか。」
友達がいれば楽しい。
家族がいれば幸せ。
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