5

月曜日、朝早く起きてお母さんの顔にお化粧をした。




「こんなものでどうでしょう?」




鏡でお母さんの顔を見せると、お母さんがゆっくりとした手で目を指差した。




「あ・・・ラぃ、ナー・・・。」




「したじゃん!!!今!!!

もっとやるの!!??

お母さんこんな厚化粧だった!!??」




お母さんに何度目かの指摘をされ、笑いながらまたアイライナーを引いていく。

やっとOKが出て、それからお母さんが1番お気に入りの服を着させた。




そして、私は制服姿。

学校は休むのに制服姿。




お母さんの腕を支えながら家を出る。

少しずつしか歩けないお母さんを支えながら、ゆっくりと。





「お母さん!!化粧しちゃったから美人になってるから、もっと病人っぽくしていいからね!!」





マンション前にとまっているタクシーまで、ゆっくりとゆっくりと歩きながらそう言うとお母さんは小さく笑っている。





「可愛い女子高生が病気のお母さんを必死にメイクして必死に連れて行くの!!

お父さんもお兄ちゃんも病気になったからね!!!

親身になってもらって早く手続き進めてもらおう!!!」
















5ヶ月後・・・




筋肉モリモリだったお父さんがヒョロヒョロになった姿で、こっちを見て驚いている。




「驚くのこっちだから!!!

ヒョロヒョロじゃん!!!

1度もお見舞いに来なかったけどさ!!

そんなヒョロヒョロになる!!?」




そう言って大笑いをした。

なのにお父さんは私を無視して、ノロノロとした足取りで・・・

私の隣に立っているお母さんの目の前に立つ。




私に支えられることなく立っているお母さんの目の前に。




「お母さん・・・?」




「ぉとさ、だぃじょぶ?」




お母さんがメイクをした顔で、今日のために2人で選んだ勝負服を着て、筋肉はないけど肉付きよくなった身体でお父さんに笑いかける。




「リハビリしたの・・・?」




「してなぃ・・・。」




「なんで、こんなに・・・?」




「はるかと、ぁそんで、た。」




「遊んでたぁ!?」




ヒョロヒョロのお父さんが驚きながら私を見てくるので、私はまた笑う。




「楽しかった~!女2人きりで!!」




「女2人きり?お兄ちゃんは?」




「お兄ちゃんも病気になって、お父さんが入院した1週間後からいないよ!」




私の言葉にお父さんがもっと驚く。




お父さんの入院バッグを私が持とうとしたら、お父さんが自分で持ちながら3人で病院を出た。




お父さんもノロノロと歩く。

お母さんの通院で精神科にも付き添って分かったけど、精神科に通院している人はノロノロと歩く人ばかりだった。

別に先生に聞かなかったけど、ノロノロした歩き方の人ばかりだった。




お父さんの歩き方もそうだった。

退院は出来たけど薬は処方されているし、これからも通院していくことになる。





「タクシーで帰ろうね!!

お母さんのお陰で料金安くなるし!!」




「お母さんのお陰?」




「障害者手帳!!

あれで都が運営してる美術館とか博物館とか入園料がかかる公園とか、無料になったりするんだよ!!

同伴者も!!!」




「それで・・・遊んでたの?」




「それは遊ぶでしょ!!!

土日はお母さん連れて遊び回ってた!!!

私まで無料になるんだよ!!?

ありがたくありがたく、遊んでたよ!!」




私は大笑いしながら、まだまだ不自由なお母さんの介助をしてタクシーに乗らせる。




「あ、家に毎日福祉のヘルパーさん来てるから。」




「そうか・・・。家事とか?」




「今は、家事は私とお母さんがやってる。

ヘルパーさんにはお母さんと買い物がてら散歩してもらってるだけ。」




タクシーにゆっくりと乗り込んだお父さんが、また驚いた顔をした。




「お母さんが、家事・・・?」




筋肉モリモリのお父さんしか見たことがなかったので、ヒョロヒョロのお父さんにまた笑いながら私は頷いた。




「時間はかなり掛かるけど、一緒にやってもらってる。」




「そうか・・・。」




「最低限ね?

洗濯物なんて3日に1回したらいいくらいだし、掃除は1週間に1回!!!

食器洗いだって毎日しない・・・ってしてたら、最近お母さんが洗っておいてくれてる。

ご飯なんて手作りじゃなくて、コンビニ・スーパー、あと色んな所で外食!!」




「お母さん、そんなに良くなったんだ・・・。」




お父さんがそう言った時、お母さんが・・・




「たぃへ・・・だった・・・。」




「それは大変だったと思うよ、お母さんよくここまで良くなったな・・・。」




「ちが、はるか・・・が。」




お母さんがそう言い出して、苦笑いをする。




「そぅちょ・・・から、ぃっしょさんぽ、してくれたり・・・。

そこ、から・・・がっこ・・・。

かぇってから、またょるさんぽ、ぉふろ・・・。」




「家事も介護もヘルパーさんがやってくれてたじゃん!!」




「それでも・・・たぃへ、だった。」




「なんとなくやってたから!!

お母さんだって見てたじゃん!!

かなり、なんとなくだったよ!?

毎日散歩してたわけじゃないし、2人でサボってテレビ見まくったりしたじゃん!!」




お母さんにはそう言ったけど、まあ大変だった。

お母さんも私を助けようとしてくれたから、ここまで良くはなれたけど。

最近は1人でも家にいられるようにはなったけど、そこまでも大変だった。




でも、手続きが全て終わってからは生活が送れた。

色んな手続きには時間が掛かったけど、支援を受けられるようになってからは生活が送れた。




障がいのあるお母さんと高校生の娘、その2人でも生活出来る生活が、送れた。




「お父さん、日本の福祉は素晴らしいから!!」

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