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「お母さん、これからお父さんを病院に連れて行くから。

その前におしっこ取っちゃおうか。」




お母さんが心配そうな顔で私を見ている。




「ぉと・・・さ、ど・・・し?」




「体調悪いみたい。

お兄ちゃんお昼には帰ってくるし、2時間くらい1人で大丈夫かな?」




これまでお母さんを1人にするのは30分や長くても1時間だった。

不安でもあったけど・・・




お母さんの目はしっかりしていた。




それには笑った。




“これなら死ねば良かった、ごめんね”

退院してから、喋れないお母さんは何度もそんなようなことを繰り返していたから。




虚ろな目で、それだけを繰り返していたから。




「行ってくるね!!!」




あえて大きく明るい声を出した。




“しっかりする。

今は、しっかりする。”




私は午前中だけある学校を休み・・・

少し泣き止んではまた大泣きを繰り返すお父さんをタクシーに乗せ、病院に着いた。

なんと「すぐに来て下さい」と言ってもらえた。




お父さんは自力で歩けないくらい脱力していた。

歩くのもゆっくりゆっくり、何度も立ち止まりながら病院内を私に支えられて歩いた。




受付をしたらすぐに診察室に入れてくれ、私は待合室で待つように言われ長い間待っていた。

途中でお兄ちゃんからメッセージが届き、家に着いたという報告でお母さんも大丈夫で安心をした。




そして、診察室に私が呼ばれ・・・




先生から聞かされたのは、

お父さんは“重度のうつ病”で“パニック障害”だということだった。




即、入院だった。




お父さんの入院セットは病院内の売店で全て揃えた。

我が家には幸いお金がある。

一旦家に帰り入院セットを準備する時間を、私はお金で買った。

時間をお金で買った。




時間をお金で買っても、花火の音は鳴るから。




“しっかりする。

今は、しっかりする。”




そう思いながら、売店の店員さんに「お父さんが精神科で入院になった」と話し、店員さんに全て揃えてもらった。




カミソリや長いコードなど、精神科には持っていけない物もあったので聞いてよかったと思った。




そんな感じで、お父さんは入院した。

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