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2月・・・
「先生のお陰で、私は高校受験も大学受験もなんとなくで乗り切ったよ!!」
私は高校受験をしなかった。
正確には、学校の成績が良くて私立1本の単願推薦で受験が出来た。
だから、面接と小論文だけの高校受験で早めの時期に終われた。
「悠ちゃんがしっかりやったからね。」
「先生がしっかりさせてくれたからだよ。」
先生に笑いかけると、先生が嬉しそうな顔で私を見詰めた。
「俺は父さんの会社には入らず、弁護士を目指すことにしたよ。」
先生が急にそんな爆弾みたいなのを落として、それには驚いた。
「先生どうしたの!?」
「友達が会社を立ち上げる時の手助けが出来ればっていうのと・・・」
「いうのと・・・?」
「親の会社に入ると、金持ちの親に頼んで暇潰しみたいな感じになるしね。」
そんな、いつか私が言ったことを言い出して・・・
「先生に言ったわけじゃないって!!!
ごめんって!!!」
私が慌てて謝ると先生も面白そうに笑っている。
「それも悠ちゃんの言う通りだし、あと俺は“先生”でいたいと思ったから。」
「先生って?弁護士?」
「残っているのが弁護士だったから、弁護士を目指すことにしたよ。
俺に対して“ありがとう”って言われたことはあるけど、悠ちゃんから言われた“先生、ありがとう”が忘れられなくて。」
そんなことを先生が言うので、最後に笑顔で言ってあげた。
「先生!!!ありがとう!!!!」
先生は、“先生”だった。
私の“先生”だった。
“しっかりする。今は、しっかりする。”
そう教えてくれた“先生”だった。
*
“先生”が教えてくれたことを守りながら、私は生活していた。
しっかりする時はする。
でも、力を抜く時は力を抜く。
そんな生活を繰り返し、高校2年生になったばかりの日・・・
土曜日の朝、突然リビングから大きな泣き声が聞こえてきた。
お母さんの声ではなくて・・・。
消防士2年目のお兄ちゃんはまだ帰っていない。
お父さんが泣いているのだと思い、驚きながらリビングに普通に歩いて行った。
リビングに入ると、お父さんはダイニングテーブルに突っ伏して大きな大きな声を上げて泣いていて・・・
「なになに!?どうしたの!?」
あえて大きな明るい声で聞いて、お父さんの前に座った。
そんな私にお父さんが大泣きしながら顔を上げて・・・
「お父さん・・・っ仕事辞めてもいい!!?」
そう聞かれたので・・・
「え?別にいいんじゃない?」
軽い気持ちで答えると、お父さんが驚いた顔をして・・・大きな大きな声でまた泣いた。
「仕事辞めたくてそんなに泣いてんの!?
うちお金あるんだし辞めればいいじゃん!!」
「悠の大学もあるし・・・っっ」
「お金どれだけあるか知らないけど、無理そうなら別に行かなくていいよ!!
遊べると思って大学行こうとしてただけだし!!」
お父さんにそう言うと、お父さんが泣きながらスマホを手に取り泣きながらどこかに電話を掛けた。
泣きすぎて全然喋れていないけど、職場に電話を掛けているようだった。
でも泣きすぎて全然喋れていないので、お父さんのスマホを取り上げ私が話した。
相変わらずお父さんの役職とかも知らなかったので、お父さんの名前と娘とだけ伝えて・・・
「お父さんが辞めたいらしい」だけ伝えるとすぐに保留になった。
そして電話に出たのは女の人だった。
事務の女の人なのかと思ったら、“署長”と名乗っていたので少し驚いた。
「あの、娘なんですけど~・・・お父さんが仕事を辞めたくて泣いているので辞めいいですか?」
そう言うと、署長さんは少しだけ無言になった。
「娘さんは何歳なんだっけ?」
「高校2年生です。」
「お母さんが・・・ご病気なんだよね?」
「まあ、そんな感じです。」
「家族のこともあるから、そんなに早く答えを出さないようにお父さんに伝えて?
病院に行って診断書を貰ったら、しばらく休めるからって伝えてくれる?
それからだって遅くはないから。
辞めるのはいつでも辞められるからね。」
署長さんの言葉をお父さんに伝えると、お父さんは大泣きしながら頷いた。
「お家の住所から近い病院を調べるね。
ファックスあるかな?」
「あります。」
「いくつか書いて送るからすぐに病院に連絡をして受診して?」
それから数分後にファックスが届いた。
見てみるといくつかの病院と電話番号が書いてあって・・・
《心療内科か精神科を受診》
そう書かれていて驚いた。
でも、言われた通りに電話を掛けた。
土曜日だけどどの病院も電話が繋がり・・・
だけど1週間後の予約や、長いと1ヶ月後の予約とも言われてしまった。
少しだけ考えて・・・1週間後の予約と言われた病院にもう1度電話を掛けた。
また同じ女の人の声が聞こえ、また精神科に電話を回してもらい、そこでも同じ女の人がまた出た。
「さっき電話をした者なんですけど・・・。」
『はい、お父様のご予約ですね。
1週間後でお取りしますか?』
「今凄い泣いていて。」
『・・・お父様と電話を代わってもらえますか?』
「さっき会社を辞める電話も泣きすぎて喋れなかったので無理そうです。」
『そうですか・・・。
3日後でしたら・・・3日後はいかがですか?』
そう聞かれ、大泣きを続けているお父さんの姿を見る。
“しっかりする。
今は、しっかりする。”
そう思いながら多めに息を吸った。
「うちはお母さんが病気の後遺症で手足も不自由だし喋れないし、お父さんもこんな感じだと高校2年生の私が3日後まで待てないです。」
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