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「お母さん、一先ずは良かったね。」




塾で先生がそう言って、優しく笑う。




お母さんが見付かったのは2日後だった。

お父さんが翌日に警察に行き、その次の日。

その2日間、家の中は葬式中のようだった。




お父さんは警察に行った後、朝から晩までお母さんのことを探し回っていた。

お兄ちゃんも・・・。




お母さんが帰ってきたり電話が掛かってくるかもしれないので、私は家で待機をしていた。




たまにお父さんが私の様子を見に帰ってきたけど、私の顔を見ては大きな声を上げて泣き出す・・・。

私の顔はお母さんに似ているし、お父さんとお母さんは高校生の頃からの付き合いだったからだと思う。




そしてわたしは、勉強をしていた。

家でもしっかりと勉強をしていた。

お母さんに何かがあっても、私の花火の音は鳴っているから。

大好きなお母さんだけど・・・

私の花火の音は鳴っているから。




しっかりする。

今は、しっかりする。




家の掃除や洗濯は最低限、作るご飯も手抜き。

そんなのは別に関係がないから。

みんなの花火の音には関係がないから。

私は関係がないと思うから。




こんなのが最低限でも手抜きでも、花火の音は鳴り続けると私は思うから。




お母さんは病院にいた。

花火大会の日、手ぶらで人混みの中で倒れたらしい。

家の鍵は掛かっていたのに家の鍵も持っていなかった。

倒れてしまった時に落としてしまったのかもしれない。




それからお母さんはすぐに手術となり、手術は無事に終わった。

無事には終わった・・・。

お母さんの花火の音は終わらなかった。




でも・・・




「後遺症は残ってしまうだろうって。

リハビリでどこまで戻せるかって。」




先生にそう言って笑った。

笑う私を先生は真面目な顔で見ている。




「先生、私は大学に行く。」




「大学・・・?」




「大学生活4年間、遊んで過ごしつつお母さんのリハビリにも付き合う。」




「そうだね。」




先生がいつものように優しく笑い、印刷していた紙の中から資料を1つ抜き出した。




「この高校、私立なんだけどどうだろう。

偏差値は高めなんだけど大学附属なんだよね。

停学にならない限り内部生はほとんど大学に進めるけど、成績によって希望の学部には入れない可能性もあるけど。」




「え~!?凄い良いじゃん!!!

大学受験なしで入れちゃうの!?」




「小論文だけはあるみたいだね。」




「そんなの全然書く書く!!」




私がそう答えると、先生はいつものように優しい笑顔。

そんな先生に笑いかける。




「先生、ありがとう。」














お母さんが退院した後も大変だった。

むしろ、退院した後の方が大変だった。




起き上がってはいられるけど、手足は上手く動かない。

喋るのも・・・ほとんど出来ない。

そんなお母さんに・・・お父さんが必死に介護やリハビリをした。




それにお父さんは・・・




「お父さん、お弁当なんていらないよ。

学校に行くまでにコンビニだってあるし。」




「お母さんが悠のご飯のこと心配するから!!」




そう言って、今日もお父さんにお弁当を渡される。

お父さんは自分が仕事に行く前、5時から起きて朝ご飯とお昼ご飯を作り、私のお弁当まで。




何を言っても止めないお父さんに溜め息を吐き、お礼を言った。




「お兄ちゃん、私これから学校行ってくるね?

帰ったらすぐに変わるから。」




起きてきたお兄ちゃんにそう言う。

大学生のお兄ちゃんは比較的に時間の融通が効いて、3人で上手く時間の調整が出来ていた。




「今日は塾が休みだし、お兄ちゃん友達と呑んできたり遊んできなよ。

少し気分転換した方がいいって。」




「お母さんのことも悠のことも心配だから、家にいる!!」




この話はお兄ちゃんに何度もしていた。

それなのにお兄ちゃんは時間が許す限り家にいる。

お兄ちゃんにも何を言っても止めない。




気持ちは分かる。

気持ちは分かるけど・・・。




「しっかりしすぎだよ・・・。

お父さんもお兄ちゃんもしっかりしすぎだよ・・・。」




お母さんの介護もしているのに、変わらずピッカピカの我が家・・・。




それを見渡した後、お母さんに笑顔で挨拶をしてから家を出た。

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