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中学1年生 1学期終業式から帰り・・・





「悠・・・この成績・・・。」




通知表を見ながらお母さんが少し怒っている。




「別にそんなに悪くなくない?

3ばっかりだけどたまに4もあるし、美術と体育は5だし!」




お母さんが作ってくれたお昼ご飯を食べ終わったらバレー部の練習に行くので、テキトーにそう返事をした。




「ちゃんとテスト勉強しなかったでしょ?

テスト前だってテレビばっかり見てたし、部屋に行ったら漫画読んでる時もあって。

普段しない部屋の片付けまでして~!」




「勉強始めようと思うと、何故か部屋の片付けしたくなるんだけど!!

別にいいじゃん、悪い成績じゃないし。」




お母さんにそう言うと、お母さんが少し怒った顔のまま・・・




「塾行かせる!!」




「え~!!!嫌だよ、部活だってあるし!!!」




「お母さんみたいに毎年全国に行くようなバレー部じゃないでしょ!?

ほぼ毎日練習はあるけど、遅くても19時には帰ってくるからそれから夜ご飯食べて塾!!

どうせ家に帰ってもゴロゴロテレビ見てるだけでしょ!!」




「テレビ見てゴロゴロする時間が大切なんだって!!!

ベッドに入った瞬間の次に幸せな時間なの!!!」




「悠はやらなきゃいけない環境を作らないと絶対に自分じゃやらないから!!

宿題だって友達に見せてもらってるんでしょ!?」




「・・・お母さん凄いんだけど、何で知ってるの!?」




「アンタが宿題やってる所見たことないし、どうせ友達に甘えてみんなから甘やかしてもらってるんでしょ!?」




「こわ~!!母親こわ~!!!

今日の夜ご飯、私は何が食べたいでしょう!?」




「冷やし中華でしょ!?」




「こっわ!!!母親こっわ!!!」




家の中で1番の権力者であるお母さんに命令をされたら、私に拒否権はなく・・・

夏休みから週に2日は塾に通うことになってしまった。




集団での授業だと私がなんとなくしかやらないことをお母さんにバレていたので、個人指導の塾に・・・。




やらなきゃいけない環境を作らされてしまった・・・。




そして、私を担当してくれる先生と会い・・・




心臓が大きく鳴り響いた・・・





「何でアンタがこんな所にいるの!!??」





だって、現れたのは葛西だったから。

小学校1年生から3年生まで同じクラスで、私のことを散々泣かせた葛西だったから。




末っ子で家族から可愛がられ、お兄ちゃんの友達からも可愛がられ、幼稚園でも友達から何故かお世話してもらうことが多くて、そんな私には葛西の存在がめちゃくちゃ怖かった。




普段は凄い優しいのに急に暴れだして暴言を吐きまくる。

時限爆弾を持っているような男子で、その爆弾がいつ爆発するかめちゃくちゃ怖かった。




私に向かっても暴言を吐いてくるし、誰にでも。

普段とのギャップでめちゃくちゃ怖かったし、誰かにあんな風に攻撃をされたことがない私は葛西が恐ろしくて仕方なかったし、大嫌いだった。




4年生で転校したけど近所だったからよく見掛けるし、そんな葛西が塾でも・・・




塾でも・・・




「何で中1で先生やってんの!!?

どうせ金持ちの親に頼んで暇潰ししてるんでしょ!!??

また私のことを虐める気!!??

私だって強くなったんだから、そうはいかないからね!!!!」




強くなった。

私は、強くなった。




葛西に何も言い返せないまま泣いている自分が大嫌いだった。

葛西以上に、すぐに泣く自分が大嫌いだった。




葛西が転校してから私は強くなった。

泣かない強い女になった。

いつか葛西にまた会った時、今度こそ泣かされないくらい強い女になろうと決めていたから。




鼻息荒く葛西を睨み付けていると、葛西は困ったような顔で笑って・・・




「俺は葛西凛太郎、大学2年生です。

元木さんは弟と同級生なのかな?

元木さんって・・・お兄さん中学の時に剣道部だったでしょ?

お兄さんが1年生の時に俺は部長だったんだよね。」




そんなことを・・・言われて・・・




「間違えましたっっっ!!!」




慌ててお辞儀をして謝罪をした。

だって、葛西凛太郎っていったらお兄ちゃんの憧れの大先輩。

お兄ちゃんから聞く“葛西先輩”は神様のような人で、この世の人間とは思えない人生2回目みたいな人だったから。




「弟とは顔がソックリなんだよね。

背丈が違うのに単体だとよく間違われるから気にしないでね。

それに弟が虐めてたのかな?

兄として謝罪します、ごめんなさい。」




「いや、葛西パイセンが謝らないでくださいよ!!」




「・・・パイセン?」




「あ、お兄ちゃんがよく言っていて。

“葛西パイセン神”って。」




私がそう言うと、葛西パイセンは確かに神様や仏様のような笑顔で笑っていた。

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