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木曜日・・・




「元木さん、今日はスナックに行かない?」




定時になる直前、女の弁護士先生から声を掛けられた。




「もしかして先生のお母さんのスナックですか?」




「そうそう!少し疲れちゃったから“ママ”に会いたい。」




「私は今会いたくないですね~・・・」




「高いお酒ご馳走するから!!」




それを言われると・・・




高いお酒は呑みたいので頷いた。

















薄暗い店内、カウンター席で号泣している・・・




隣に座っている女の弁護士先生が・・・。




煮物を食べた後に号泣していて・・・。

何度か来ているので知っているけど、この煮物を食べると人がよく泣く。

それを今日も不思議に思いながらパクパクと煮物を食べると・・・普通に美味しい普通の煮物だった。




首を傾げながら煮物を見下ろしていると、カウンターの向こうから“ママ”が大笑いした。




「元木ちゃんはつっよい女だよね~!!

“したたかで強い”!!!」




先生のお母さんでもある“ママ”からそんなことを言われた。




「全然強くないですから!!

末っ子なので強いどころか人に頼ってばっかりの甘えた女です!!

それに・・・“したたか”って良いんですか?」




「それで良いんだよ!!

道っぱたの人でも動物でも何でも利用して、前に進めればそれでいいの!!

自分の足で歩かなくたって前に進んだ者勝ち!!

自転車だって車だってどっかからか持ってきそうな“したたかで強い女”だよ!!」




“ママ”は私のことを毎回こんな風に言う。

先生の生徒だったし、お兄ちゃんは先生の部活の後輩だったし、近所だったし、たまに会うこともあって。




色んな人から“良い子だね”と言われる私を、先生のお母さんだけは私のことを“したたかで強い”と言う。




「元木さん、先生とお付き合いしてるんですよ!!」




女の弁護士先生が・・・涙を拭きながらそんな爆弾を落とした。




これには焦り・・・




「違いますから!!!」




と、大きな声で否定をした。

それなのに女の弁護士先生は良い感じに酔っぱらっていて・・・




「“ママ”聞いてくださいよ!

先生が月曜日の朝のミーティングで大真面目な顔をして、“誰も取らないように”まで言ってたんですよ~!」




「へぇ~、あの凛太郎が・・・。」




“ママ”がそう言いながら真面目な顔で私を見てくるので、そのママを見詰め返し言う。




「もう別れていますので。」




「え!!?先生と別れたの!?」




「そもそも付き合っているかも微妙な感じでしたから。

女を見る目のない先生が急にあんな感じになっただけで。

先生っていつも彼女と数日で終わっていたので、私もそんな感じです。」




先生のお母さんでもある“ママ”もいるけど、今は“ママ”なので気にせず話す。




「火曜日にメッセージが来ましたけど、それに返信しませんでしたし。

先生って数日返信来ないだけで“もう終わりかな”ってなるんですよね。」




「でも明日出張から帰ってきたら事務所で会えるし・・・」




「私は基本的には定時で帰らせてもらう約束なので会えませんね。」




その約束があったから、先生の事務所に転職をした。

前の事務所は残業も土日出勤も結構あって、お父さんとお母さんのことが心配だったから。




2人きりでいるとお父さんの精神的な負担が大きすぎたし、それはお母さんも。

私が実家に帰ってワーワー話すことで家の空気は確実に散らかる。

あの家はあまりにキチッとし過ぎているから。




“ママ”の演歌が、今日もスナックに響く。

今日は初めて聞く恋の演歌だった。

よく歌詞を聞くと復縁の演歌だった。




その“ママ”の演歌を聞いて・・・




少しだけ泣いた。




少しだけ泣いた私を見て“ママ”がまた大笑いをした。




“これは強すぎる女かもしれないね!”と言いながら・・・。




“夜の女になればいいのに!”と言いながら・・・。

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