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私の言葉に、女の人は開けた口をそのままにした。
「私の母は私が中学3年生の時に障がい者になりました。
両手足も上手く動かせず、喋り方も普通ではありません。
一時期は排泄も自力では出来ず、自宅で数時間おきに尿管に管を通していました。」
私の説明に女の人は少しだけ落ち着き、それでも・・・
「でも、あなたはお父さんだっているんでしょ?」
「います。消防士だった父がいます。」
「だったら・・・」
「その父は、私が高校2年生の時に重度のうつ病になりパニック障害にもなりました。
数ヵ月間入院をし、仕事に復帰は出来ず毎日勤務で事務を。
それでも何度も再発し今でも薬を欠かさず飲んでいます。」
そこまで話し、女の人は私をやっと見た。
そんな女の人に笑いかける。
「まだ続きますよ?
父が入院して1週間で、消防士として働き始めたばかりの兄まで中度のうつ病と適応障害になりました。
このような状況への反応性のうつなので、家にはいることは出来ません。
一人暮らしをさせて、それでも仕事には復帰できず退職をしました。
毎日毎日何度も何度も私に“死にたい”と連絡をするので、その度に何度も駆け付けました。」
何も言わずに私を見詰めている女の人に笑いかける。
「何が言いたいのかと言いますと、1人でやろうとしてはいけないということです。」
私のその言葉には女の人が首を傾げる。
「私の父や兄は何でも出来るし完璧主義で。
家事や母の介護を家族だけでやろうとしました。
主に父は、母のことが大好きだったのでそれはもう必死に。
でも夜勤の日もあるので、そこは私がやりましたが。」
「仕事に家事や子育て、それに介護・・・。
疲れてしまう・・・。
私も・・・疲れています。
まだ子どもは全員小さいから私は助けてもらえない。」
「私がもっと早く気付けばよかったのですが、ある日突然父が泣き出すまで私は気付けませんでした。
そこまでになっていると、私は気付けませんでした。
それくらい、強くあろうとしてくれていたのだと思います。」
私はそう言って、女の人が握り締めている両手に手を重ねた。
「1人で出来ることではないですし、1人でやることでもないと私は知りました。
家族の問題だとしても、家族だけで解決出来る問題ではないこともあります。
頼りましょう、福祉に。
日本の福祉はとても素晴らしいです。」
そして、名刺を1枚だけ女の人に渡した。
「兄は現在、NPO法人で働いています。
何かしらの障がいのある方やその家族が集まれる場所で働いています。
特に何かをするわけでもなく、当事者だけではなく家族も少しだけ力を抜ける場所を提供している所です。」
女の人が目に涙を溜めながら名刺を受け取った。
「しっかりしましょう。
今は、しっかりしましょう。
その男には秘密にして証拠を集め、色々な手続きを終えるまではしっかりしましょう。
そして、支援を受け始めたら思いっきり頼ってしまいましょう。」
目に溜めた涙を流さず我慢している女の人を見詰めた後、先生の方を見る。
「あなたには弁護士先生もついているから大丈夫です。
安心して頼ってください。
優しい顔をしていますけど、クライアントを守るためには厳しくもなれる弁護士先生です。
うちの事務所の所長ですから。」
そう言いながら、真面目な顔をしている先生に私は笑いかけた。
私は、“重い女”・・・。
私自身はスレンダーで重くはないけれど、私は“重い女”。
私は、“家族が重い”女だった・・・。
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