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花火をほとんど見ないまま、先生にずっと優しく抱き締められていた。

私も・・・先生の背中に手を回していた。




そして最後の花火が打ち上がり・・・

大きな大きな花火の音で身体の底まで震えた・・・。




花火の音が消えると、周りのザワザワとした音が。

それを確認してから先生の心臓の音を最後に聞き、ゆっくりと離れた。




いや、離れようとした・・・。




私は先生の背中から手を離したのに、先生は離してくれない。

そんな先生の胸を両手で押す。




そしたら先生に少しだけ強く抱き締められた。




「先生、花火終わったけど。」




「これはカップルが成立したってことだよね?」




それには笑ってしまった。




「成立していませんよ。

花火の音が終わるまで抱き締めさせてって、先生が言ったんじゃないですか。

花火の音が終わったので、もう抱き締めるのは終わりです。」




私がそう言うと・・・

先生が片手をゆっくりと私の左の胸の上に置いた。

それには驚き身体が少し震える。




それを確認してから、先生は自分の胸の上にも手を置いた。




それから真面目な顔をした先生が、私の顔に近付いてきて・・・




私の顔を見詰めてきて・・・




「悠ちゃんの花火も俺の花火も、まだ音が鳴ってるけど。」




「そこの花火の音だとは聞いてないから・・・。」




「でも、ここの音も花火の音だと思ってたでしょ?」




それを聞かれると・・・何も言えなくなる。

だって、思っていたから・・・。

私もそう思っていたから・・・。




何も言えない私に、先生が優しい顔で笑い掛ける。




「これは、カップル成立したってことだよね?」




「保留にしてください・・・。」




「その代わり、答えが出るまで他の男の人と会わないならいいよ。

しっかり考えて。

俺のこと、しっかり考えて。」




そんなことを言われてしまい、少しだけ深呼吸をする。




「私は・・・彼氏が1人だけしかいたことがありません。」




「知ってるよ?」




「その、何も経験していなくて・・・色々と。

あの~・・・色々と、今年30歳なんですけど。」




「それは流石に知らなかったね。」




「その人からは“重い”と言われてフラれました。

私は“重い女”なので、先生こそしっかり考えてください。」




「重いって何?

悠ちゃんスレンダーだけど。」




これには笑う。自然と笑う。

先生の胸にオデコをつけ笑った。




「とりあえず!!先生が保留にして!!

私は“重い女”なの!!!

先生やっぱり見る目ない!!!

私は“重い女”なのに!!!」











“保留にして”

そう言ったのに・・・。



私の一人暮らしの部屋の中に先生がいる。

“2人になれる時間もないとしっかり考えられない”と何度も言われ・・・。




「女の子の部屋っぽいね。」




そんな感想を言いながらりんご飴を1DKのキッチンの上に置いた。




「大金持ちの先生には驚くくらい狭い部屋じゃない?」




「俺の一人暮らしの部屋と同じくらいだよ?

母親から“人には金を使え”って言われてるから、自分には使わないんだよね。」




「だから先生、お金目当ての女の人達から狙われるだよ!!

そういうのやめなって!!

・・・何飲む?お酒?」




「お酒置いてるんだ?」




「友達が来たりもするし自分でもたまに飲むから。

今・・・缶ビールとサワーありますね。」




「缶ビールもらおうかな、ありがとう。」




冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し、先生に1本渡した。

先生をローソファーに座らせ私は床に座ろうとしたら、先生に手を優しく引かれた。




「一緒に座ろうよ。」




「ギリギリ3人座れる狭いソファーだから。」




「それなら2人座れるよ?」




先生と2人でソファーに並んで座る・・・。




「悠ちゃんがそんなに無言になると、俺までどんどん緊張するから。」




先生が面白そうに笑って私を見てくる。

私は、緊張していた。

だって私のことをそういう感じで見てくる男の人を部屋に入れたのは初めてだったから。




「男友達は入れたことがありますけど、こういう感じの人を入れたのは初めてだから緊張する・・・。」




「タメ語と敬語が混ざってるね。

男友達とかも入れたらダメだよ・・・相手は友達だと思ってないかもしれないから。」




「・・・先生、結構束縛系ですか?」




「全然そんなことないけど。

でも、そういうのは危ないからね。」




缶ビールを飲みながら先生をチラッと見てみる。

これまでの先生との仲は、彼女さんとの相談もされるくらいで。

それくらい先生は私のことをそういう風には見ていなくて。




「もっとサラッとしている人かと思ってた。

彼女さんから数日間連絡が来ないだけで“もう終わりかな”なんて言って、その後に彼女さんから連絡が来ても会わないようにしてたのに。」




「そうだけど・・・。

悠ちゃんのことは俺から好きになったし、全然そういう感じにはなれないよね。」




先生が照れたように笑って、缶ビールを美味しそうに飲む。




それから、先生が少し真剣な顔で私を見た。




「悠ちゃんこそ“彼氏欲しい”みたいな感じがなかったのに、どうしたの?

婚活パーティーには驚いたよ。」




「私は出来たら良いなくらいでしたけど、親が・・・。

心配してきていますね、私にずっと彼氏がいないので。」




「そうなんだ・・・。

俺も37歳だし凄い言われるね、特に母さん。

“好きな女1人見付けられなくて何してるんだよ”って凄い言われるよ。

“せっかく生んでやったのに”まで言われて、流石に困るよね。」




先生のお母さんとは何度か会ったことがある。

スナックのママもしていてお店にも何人かで行ったことがあるし、バッタリお会いしたこともあるくらいで。




「先生のお母さん私には凄い優しいけどね。」




「悠ちゃんみたいな子、母さん好きだからね。」




「私のこと何か言ったんですか?」




「言ってないけど、長年スナックのママをしてたら分かるんじゃない?

母さんは小さな頃から育ての親がやってたスナックも手伝ってたからね。」




先生がそう言って、私を見詰めた。

それには恥ずかしくなってしまい・・・俯く。




「先生・・・私のどこがいいの?」




ずっと聞きたくても聞けなかったことを聞いた。

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