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「あ!悠ちゃん、りんご飴があるよ。」
先生がそう言って、屋台でりんご飴を5本も買ってきた。
それにも苦笑い・・・。
「先生、人にお金を掛けすぎです。
だからお金目当ての女の人も多いんですよ?」
「りんご飴5本でそう言われるのか・・・。」
先生がりんご飴を私に1本渡してくれて、ビニール袋に入れた残りの4本は先生が持っている。
「家まで送った時に渡すからね。
お父さんとお母さんとお兄さんと、ハナビの分。」
「お兄ちゃんは実家に住んでいませんし、ハナビはネコなのでりんご飴を食べません。」
「じゃあ、お兄ちゃんの分は悠ちゃんが食べてね。
ハナビのはハナビのオモチャにしてあげよう。」
我が家の家族構成まで知っている先生がそう言って、優しく笑い掛けてくれる。
それには・・・苦笑いではなく自然と笑い返してしまう。
先生は本当に優しくて良い人で、きっと良い男でもあるはずで。
なのに女を見る目だけがなくて可哀想な人だとも思ってしまう。
浴衣姿や私服姿の人達の中、ジャケットは羽織っていないけどスーツ姿の先生と私が花火大会の人混みの中を歩いていく。
その時・・・
花火の上がる音が聞こえ・・・
夜空に大きな綺麗な花火が・・・。
それから一拍置き、身体の底まで震えるような大きな大きな音がして・・・
私の手を、先生が握った・・・。
驚き先生を見ると花火を見上げていて・・・。
「花火見てるじゃん。」
「それは見るよね。」
「変なの・・・。」
そう言ってから笑う私を先生は優しい笑顔で見詰めていた。
*
「そんな所に座れないから!!」
土手の草の上に先生のジャケットが広げられ、そこに座るよう促された。
私がすぐに断ると先生は不思議そうな顔で私を見ている。
「後でクリーニングに出せばいいだけだから。」
「それ、明日私に頼むんですか?」
「そんなことしないよ。
たまにしてるけど。」
先生が笑いながら答え、広げたジャケットの横に自分は座った。
「女の子をそのまま座らせるわけにはいかないから座って?
ずっと立ってると後ろの人も見えなくなるからね。」
それを言われると何も言えなくなる。
でも・・・
「分かったけど、弁護士バッジは外して。
弁護士バッジがついているジャケットに私は座れないから。」
「こんなのただの印だけどね。」
「違います。」
私はしゃがんでからジャケットを持ち、先生の弁護士バッジを外し先生に渡した。
「先生が弁護士の先生であるという証明です。
その証明がクライアントを安心させ、しっかりさせるんです。
そんな大切な証明の上に私は座れません。」
そう言いながら先生を見ると、先生は優しく笑い弁護士バッジを受け取った。
花火を見るのは久しぶりだった。
小学校や中学校の頃は、近所にある土手で花火大会が開催されるので毎年見に行っていた。
高校や大学に入ってからも、たまに友達と見に行っていた。
社会人になってからは見に行っていなかったので久しぶりだった。
「花火、久しぶりに見た。」
「俺もだね。」
「そうなんだ?彼女は?」
「花火の音が嫌いだから見にきたことがなかったよ。」
「・・・さっき好きって言ってなかった?」
「嫌いだけど好きでもある。」
先生がそう言うと、また大きな大きな花火の音が聞こえる。
何度も何度も・・・。
「悠ちゃん。」
先生に呼ばれ先生を見ると、真面目な顔で私を見ている・・・。
「花火の音が終わるまで、抱き締めていてもいいかな?」
そんなことを言われた・・・。
先生からそんなことを言われた・・・。
心臓の音が大きく大きく鳴る・・・。
大きく大きく・・・。
花火の打ち上がる音と重なるくらい大きく・・・。
私は、先生のことが好きで・・・。
こんなに優しいし格好良いし、当たり前だけど好きで・・・。
だから、片想いのままでいいと思っていた。
密かに想っているだけでいいと思っていた。
女を見る目がない先生だけど、お互い誰かと結婚して一緒に仕事が出来るだけでいいと思っていた。
先生を不幸にしてしまうのは、私ではない誰かでいてほいと思っていた。
何も言えない私に、先生がゆっくりと近付いてきて・・・
それを見ながら涙が流れてしまった・・・。
「私が良い女じゃないってことなのに・・・。」
「悠ちゃんは良い子だし、良い女の子だよ。」
先生が優しく笑って、私を優しく抱き締めた時・・・
花火の音がまた大きく大きく響いた・・・。
それが重なる・・・。
私の心臓の大きな大きな音と・・・。
先生の胸についた私の耳から聞こえる、先生の心臓の音と・・・。
花火の音に私と先生の心臓の音が重なり、大きくなった。
もっともっと、大きくなった・・・。
それを聞きながら、私もゆっくりと先生の背中に両手を回した・・・。
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