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そう言われてしまい苦笑いを続ける。
「先生、私のことを頑張るのをやめてもらえませんか?」
「俺が・・・女の子を見る目がないから?」
「そうですね。
先生に頑張られると、私は良い女ではないということなので。」
「悠ちゃんは良い子だよ。」
「良い子と良い女は違いますから。」
「そんなことないよ、だって・・・」
先生が何かを言う前に、私は目の前にある先生の胸を両手でドンッと押した。
少し離れた先生に言う。
笑顔も苦笑いもせず、言う。
「とにかく!!アンタに頑張られたくないから!!
それって、私が良い女じゃないってことだからね!?
分かってるの!?」
こっちも、私。
いつもの感じも私だけどたまにこんな私も出てくる。
でも家族の前限定で。
お父さんが私のことをめちゃくちゃ可愛がり、子ども好きのお兄ちゃんまで私のことや友達のことを可愛がってくれて。
お母さんからは怒られることもあったけど、私は引きずらない性格だから寝たら忘れている感じで。
家族の前だけでは、たまに末っ子!!という感じになる。
それが先生の前でもたまに出る。
だって優しいから・・・。
これを出しても嫌わない人だと誰もが知っているくらい、優しい人だから。
*
先生の部屋の中、女の人の叫び声が響く。
「先生には分かりませんよ・・・!!!
私みたいな女の気持ちなんて分かりませんよ!!!」
先生の向かいに女の人が座り、泣きながら叫ぶ。
私は立ち上がり女の人の前にティッシュを置き、それからまた自分のデスクで仕事を続けていく。
「子どもが3人もいるんですよ!?
子育てしながら私はパートだけど働いていて!!!
旦那は安月給だけど頑張って真夜中まで仕事をしているからと思って毎日毎日お弁当も作って!!!
それが・・・!!!それが女って!!!」
先生をチラッと見ると、優しい笑顔のまま頷いている。
「私が作ったお弁当を!!!
その女に写真で送って“今日もマズイ”って!!!」
女の人が顔を拭いたティッシュをテーブルの上に投げるように置いた。
さっきまでは違う弁護士先生が担当していた女の人。
その弁護士先生が話している時は冷静に話していたのに、先生の前ではこんな感じになる。
気持ちは分かる、私もそうなるから。
先生は企業法務を担当している。
でもたまに・・・他の弁護士先生が担当するこういう案件を、急に先生が担当することがある。
「僕の祖母は、裕福な家に生まれ婚約者がいました。
その婚約者に妊娠させられてしまい、家が潰れると婚約者に捨てられ・・・僕の母が5歳の時に亡くなりました。」
「・・・そうですか。」
「僕は独身ですし、僕自身は貴女のお気持ちを分かることは出来ませんが、幼い頃から母にこの話を聞いております。」
女の人が少し冷静になり先生を見詰めた。
そんな女の人を先生も見詰め、優しい笑顔で笑う。
「まだ旦那さんに、貴女が知っていることを知られていませんよね?」
「はい・・・。
たまたまスマホが開いていて、そこに新しいメッセージがその女から送られてきて・・・。」
女の人がそう答えると、先生が優しい笑顔のまま頷く。
「しっかりしましょう。
今は、しっかりしましょう。」
いつも優しいだけの先生は、こういう時は結構厳しくもなる。
「しっかり、確実に証拠を集めましょう。
貴女とお子さん3人が苦労しないでこれから生きていけるように。
それから、相手の女性への対応や旦那さんとの今後を考えていきましょう。」
「はい・・・。」
「今は、しっかりしましょう。
僕がいるので大丈夫ですから。」
この時の先生は格好良くて好き。
性格も良くてお金もあって仕事も出来る。
見た目まで良い。
そんな先生が女を見る目だけがない。
先生は・・・私に頑張り始めてしまった。
それは全然嬉しくない。
だって、私は良い女ではないという証拠だから。
過去の判例でそれが証明されているくらい、先生は女を見る目がない。
全然嬉しくない。
私は全然嬉しくない。
*
土曜日・・・
「ただいま、悠ちゃん。」
クライアント先から戻った先生が私に挨拶をする。
土曜日も先生のアポが結構入っていて、今週は平日休みを1日貰い土曜日に出勤をした
それをチラッと見ながら、私も返事をした。
「これから予定あるかな?」
「家に帰る予定がありますね。」
「花火大会が開催されるから、一緒に行かない?」
「行きません。」
そう答えてから、定時なのを確認してパソコンの電源を落としデスクを片付けていく。
そしたら、どう見ても動揺している先生が私のデスクに近付いてきた。
「明日は、この前の婚活パーティーの人と2人で会うの?」
「そうですね。」
「俺にも1日くれないかな?
今日・・・花火大会を一緒に・・・。」
「花火とか別に興味ありませんので。」
先生に笑い掛けてから鞄を持って立ち上がる。
そんな私を先生が険しい顔で見下ろす。
「花火の音を聞きに行こうよ・・・。」
「花火の音ですか?」
先生は花火を見にいくわけでなく、花火の音を聞きに行くらしい。
「俺は花火の音が好きなんだ。」
「そうですか・・・。」
これには何て返事をしていいのか分からなくなる。
「花火の音を悠ちゃんと一緒に聞きに行きたいんだけど。」
それには苦笑いで・・・。
苦笑いをしながらも小さく頷いた・・・。
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