第9回 ダンジョン配信(初)


「久しいな貴様ら。私がいない安寧の世は十分に満喫したか?今宵よりまた私の恐怖に眠れぬ夜を過ごすがいい!」


 今日はダンジョン配信初回。ロールプレイは完璧、もう二度とヘマはしない。

 同接数は2,000と少し、この大半が初見だろう。彼らを逃さないのが重要だ。


「さて、今回より私のサブチャンネル、ゲーミング犯人男性はダンジョン犯人男性として新生を遂げた。何か命乞いの言葉はあるか?」


 完璧な台詞回し、これはチャットの反応も良いこと間違いなしだろう。そう思いながらちらっと浮遊カメラに付いているチャット投影を見る。


 :その外見で言われると頭バグるw

 :どこが男性なん?

 :初見です!可愛いですね!

 :久しぶりの配信きちゃ

 :ボイチェン使わないんですか?

 :武器は!?

 :えー、もうゲーム配信ない感じか


 ふむふむ、まぁ色々と面倒くさい物もあるが概ね想定通りである。あと男性どうこうってコメントした奴、本来の姿(男性相)晒して精神崩壊させてやろうかな。


「ふふふ、やはり心地良いなぁ?恐怖に歪んだコメントはッ!」


 :そんなコメントありましたかねぇ?

 :そのキャラ続けるんだ…

 :早く魔物頃そうぜー

 :キャラ失敗してますよ

 :鬱陶しい言い回しやな


 スッとチャット欄から目を逸らす。


 …


 全員殺してやろうかな。なんか腹立つし。


「今日はダンジョン6666階層に来ているぞ。ここまで降りんと魔物どもは私に恐れをなすのでな」


 あの後どのくらいの階層の魔物なら私に立ち向かえるのか試して見たのだが結果、約5,000階層を超えたあたりから震えながらではあるが私に突貫してくるのだ。

 本当に決死の覚悟といった感じで少し嗤える。


 それと6,666階層である理由はゾロ目のがインパクト強いだろうというヨウツーバー的打算からである。


「どうした?震えて何も言えんか?私の力に恐れを出したか!?」


 人間の最高到達記録は約250、その何十倍もの深さにいるのだ。驚いて声も出ないだろう。

 少し心地よい気分でチャットの方を見るがやっぱりネットはカスである。こんな感じのものばかり流れている。


 :嘘乙

 :しょーもな

 :6階層の間違いですか?

 :つまんな

 :ギャグセン磨いた方がいいですよ


 マジでお前らの精神まとめてぶち壊してやろうか。今から枠を廃人創作RTAに変えてやろうか?


「貴様らが私をどの程度の格の存在だと思っているのかがよく分かった。…今から3秒間、人間でありたい奴は【目を瞑れ】」


 言葉に支配を込める。本心で人を辞めたいと思っている奴以外は全員目を瞑らざる負えなくなっただろう。

 後は知らん。もし人を辞めても周りの人間を殺して回るくらいだろうし、害はない。


「我が腕は全、我が足は全、我が髪は全、我が影は全、我が血は全、我が骨は全、我が皮は全、我が瞳は全、我が臓腑は全、我は全、全は我、【生の支配者にして地の頂点、その一端を見せようぞ】」


 言い終わると私の体は歪で醜悪な獣という獣、虫という虫、魚という魚、*+€×という+*=<で構成された触手に変わっていく。


 全てが終わった時には私は化身の状態でありながら『千の子を孕みし森の黒山羊』としてそこに居た。


 本当のところこんな詠唱じみたことをしなくても瞬時に変われるのだが雰囲気作りはヨウツーバーとして重要なのである。


「〒・+々々÷<72→+」→÷63¥:<・〒→々、5・6〒2・+¥1<→〜」…<→3(この形態だと人の言葉喋れないんだよなー、態々声帯を作るの面倒だしー)」


 おっと、もう3秒たってしまう。早くしないと大量の精神崩壊者を出してしまうこと間違い無しだ。何人かは人間卒業するしな。


「ほら、悪夢の3秒間は終いだ。これで分かったろう?私に生命は逆らえぬ、ここは正真正銘の6666階層だ」


 今度こそしっかり怯えて信じるチャット欄。そうだ、それでいい。私のロールプレイの妨げになるな。

 チャット欄と遊んでやっていると遠くの方から黒光りした何かが飛んできた。

 こいつは…


「ドラゴンという奴か。貴様が最初の被害者かな?」


 全身を黒い金属の鱗で覆われた翼持ちの爬虫類。これはいわゆる黒龍という奴だろう。

 少し調べたが赤龍が黒い特殊金属を食べた事で黒龍になる様だ。ブラックデジト○ンが混入したオメ○モンズワルトみたいな感じである。


 そして基本龍とは生物の中では頂点に近いらしいが、私を見てブルブルと震えている。これ程の存在でもこのザマである。なぜわざわざ私の前まで出てきたのか。


「イダイナルオンカタヨ、ワタ、ワタシノムスコヲカエシテイタダキタイ、タノムカラカエシテ…」


「ん?日本語?面白いな。爬虫類が誰に日本語を習ったというのか、なあ?」


 それと息子を返して、か。


 成る程な。この足元の肉塊、これを助けにきたのかコイツは。さっき私の『千の子を孕みし森の黒山羊(人の化身バージョン)』を見たせいで龍と言う生物から逸脱してしまったと思うのだが、それでも愛しいのだろうか?


 因みにこいつは一丁前にも私に特攻してきたので一応生かしてあったのだ。あ、そう言えばあの時「カアサンヲマモル」的なことを言っていたかもしれないな。

 てっきりそう言う鳴き声だと思っていたが。


「ふむ、こいつは誘拐してペットにでもしようと思っていたのだがそんなに大事なら返してやろうか?」


 本当は今すぐ返してやろうと思うのだが今は犯人男性ロールプレイ中、あくまでもこれは人質取引ならぬ龍質取引の体を保たなければならないのだ。


「オォ、カンシャシマス。イダイナルクロヤギヨ。ワガチチノイフトオリジヒブカキオカタダ」


 おい待て。ワガチチ、我が父と確かにそう言ったな?このダンジョンを創造した神性、そいつを知っていると言うのか?しかもそいつは私を知っているだと?誰だ、最極の空虚か?自存する源か?はたまた黄衣の王か?それとも蛇の神か?


「待て、一つ交換条件だ。コイツを返す代わりに我が父とやらの名前を教えてもらおうか?」


 そう聞くと黒龍は不味いことを言ってしまった、そんな顔をした。爬虫類の表情が分かるのか?と聞かれたら当然だ、と答えよう。我は神だぞ?


「アアァ、ヨウシャヲ、ドウカ、ドウカユルシヲ。ワタシハシラナイ、ワタシハイエナイ、ワタシハミテナイ、ダカラユルシテ」


 黒龍は更にブルブルと震えを強めついには蹲ってしまった。これは発狂の域に近い。まるで神性を見た下等生物ニンゲンの様だ。


「おい、どうしたのだ?おい!クソがっ!」


 そして終にその身を自らの手で抉り自死してしまった。

 何らかの呪いか誓約が課されていたのか、私にも知覚できないナニカに殺されたのか。その場合のナニカは空虚か混沌か大君主、大穴で魔王なのだが。


「はぁ、今回はバチクソ萎えたので配信を終了する。また次の事件まで震え待て。乙」


 :ええぇ!!!!

 :ちょっ!おわんないで

 :いまのなにいまのなに!?

 :あぁぁぁぁぁぁ

 :イア!イア!シュブニグラス

 :は?は!は!?

 :空虚はお前の前に後ろに内側に左右に上下に常にあり続けるぞ

 :マジヤバ



 こうして私の第一回ダンジョン配信は不完全燃焼に終わった。

 ちょっと前にダンジョンを作ったのが誰とかどうでもいいって言ったけど本当は滅茶苦茶気になるのだ。


 次こそはしっかり死ねなくしてから聞いてやる。

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