第8.5回 霧人について



 これはマイノグーラと再開する少し前、私が顔バレもしていない時の話である。


「霧人はナニから生まれたのー?」


 朝ごはんを食べ終わりダラダラしているとふと気になったので聞いてみた。因みに今日は日曜なので配信も動画も撮らない。


 この宇宙の生命は基本的に私の支配下にあるしそこそこの数の存在を生み出した私だが吸血鬼は地球に来るまで知らなかったのだ。いったい吸血鬼とは何者なのか。


「私は吸血鬼の始祖の1人なんだけどさ。実は私も知らないんだよね。疑問に思って調べた事はあるんだけどなー、分かんなかったんだよ。何も」


 そんな事があるのだろうか?地球原産ではあると思うのだが。霧人に次元や空間、時空を跨ぐほどの力があるとは思えないのだが。


「なにもってのは本当に一切の情報も得られなかったってことー?」


「自分が発生した場所とか調べたんだよ。けど何の手掛かりもなかった。本当に突如として発生する、それが吸血鬼の始祖なんだ」


「それじゃあまるで『自存する源』見たいだね。まぁ、あの存在のことはこの私ですらよく分かってないからねー」


「『自存する源』?それも神的なにかって訳?」


 神、うーん、如何なのだろうか。あれがいわゆる人間の尺度で神であることに違いはないのだが。余りにも異質過ぎるのだ。


「アレはね、早すぎるんだ生まれたのが。唯一魔王と近しい時を生きてる神だから。でもその魔王は夢の中だし誰もあの『自存する源』が何か分からない。本当に無から産まれたのか、それすら怪しいことこの上ないよー」


「ふーん、そんなに無から生まれる物って珍しいの?シュムみたいな神様なら結構居そうなもんだけどな」


 そんな馬鹿な。あんな強大な存在がポンポン産まれて良い筈がない。


「神とは言え無から生まれた存在は二柱だけ、魔王と『自存する源』これだけなの。私だって闇から生まれてるし全ての神も人も生物も例外なくナニカが生んでいる、だから『自存する源』の異質さは次元や空間、世界を幾つも跨いだレベルの奇怪しさなんだー」


 もしかしたら吸血鬼も創生により生まれた生物の可能性もあるけど、それにしては余りにも矮小が過ぎる。


「ふむふむ、なんか難しい話だな。結局シュムじゃ分からないってことだよね?」


 かっちーん、こりゃキレましたよ。


「そうだけど!なんか違うッ!言い方、言い方気をつけてー!?」


「ははっ、ごめんごめん。結局私の由来はわからず終いか、私って何なんだろうね」


 吸血鬼の由来か。人間の歴史では約500年ほど前の人間が元となっているらしいが霧人は少なくとも人間が猿の時から生きているらしいし。


「…一つあるとするなら魔王の夢の外から来た、かな」


「前言ってた世界は夢の中ってやつ?」


「うん、私とか一部はその影響の外へ出れるんだけど基本この宇宙は魔王の夢なの。その夢の外から来たなら無から発生したんじゃなくて外から飛ばされてきたなら、あり得るかもー?」


 霧人に世界、ましてや夢の外に行く力は感じられないけどナニカによってこの宇宙に飛ばされた、その可能性はある。


「ま、別にどうでもいいや。そこまで他の始祖も気にしてないし分かったからって何かある訳じゃないしさ」


 すっきりした顔で言う霧人、たぶんその言葉は本心に違いないのだろう。確かに自分が何者かで悩むの何て思春期の下等生物くらいだ。


「そっか。あ、もう12時だしお昼食べたい、今日はなにー?」


「今日はね、アマトリチャーナとポタージュ」


「うわぁやったー」


 自分が何者かなど気にする必要もない。


 何を知ろうといつも通りの日常が続くだけなのだ。それだけだ。


ま、私たち邪神は例外だけど。

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