第6回 影より来る悪魔

 気絶した2人を置いて私はダンジョン2階層に来ていた。

 此処からスライムや緑肌の小鬼、通称ゴブリンが現れ始めるらしい。


 この魔物達はダンジョンの壁や床、さらには天井からも生まれるそうで初心者が一番気をつけないといけないのは不意打ちだそうだ。


 そんなことを考えながら少し歩くと緑の小鬼が3匹ほど見えてきた。

 ゴブリンと言う名に恥じぬ人間の想像通りのゴブリンだった。


「…可笑しいなぁ?アイツの時間にあんな生き物居ないはず」


 ゴブリン、私の知らない生物。どこから来たのかナニが産んだのか。

 一つ確実に言えることは私と同格以上の存在の仕業であろう事だ。


「鋭角の生き物じゃあないな。あんなに穢れのない生き物があそこに住めるわけが無い」


 私が魔物について考察しているとゴブリンはやっと私の方に気がついた。

 だが様子がおかしい。緑の肌を変な色に変えながらブルブルと震えている。


「まさか、分かるのか…私の格に。なるほど確かに私と同格のモノの副産物ならそれもあるか」


 盲点だった。


 さっき闇乃が私に怯えた時点で気づくべきだった。こいつら魔物は私に立ち向かえない、と言う事実に。


 ゴブリンは今にも逃げ出したいという様な表情だったが動けない。私から逃げることが不可能なことを理解しているから。


「さて、どうしようか。君たちには勇ましく私に挑んで欲しいのだが、その様子じゃあ無理だろう。…これじゃ動画にならないな」


 ゴブリン達は未だ頭を地面に擦り付けブルブルと震えている。

 こんなんじゃダメだ。この状態の生き物を殺しても動画になんかならない。それはただの虐殺もしくは処刑だからな。


「確か階層が深くなるほど強いのが居るんだったな。千か万くらい降りれば或いは…」


 今はまだ2階層、人間の最高記録は257階層らしい。今最も強い冒険者パーティ『暗黒男の四肢』がその記録を出したそうだ。

 …何だこの名前からしてあのトリックスター気取りが関わってそうなパーティは。


 もしあの混沌が出張ってくる様なら炎に声をかけてみるか。私とあの子に関わりは殆どないが多分何とかなるだろう。

 それにあの生ける炎は混沌のことがだいぶと嫌いらしい、最初に地球に来てしたことがアイツの森を焼き野原にした事らしいからな。


 大体、あのうざったるい混沌のことを好きなやつなんているのだろうか。

 アイツはそもそもナチュラルに他存在を見下して蔑んでるから嫌われるのだ。私もアイツのことが死ぬほど嫌いだし、多分魔王だって。…考えが逸れたな。


 閑話休題


 このダンジョンとやら、私が思っていたより広そうだ。大抵のことを知覚できる私ですらこのダンジョンがどこまであるか分からない。


「多分下は無限にあるな、このダンジョンとやら。作った存在は空間か時に精通してる奴と生物の創造に長けた奴の二柱かもしれん」


 ダンジョン下の方に意識をやっていると不思議な感覚がした。


「ん?なんだ?」


 色々と考え込んでいる内に突如として私の周りから生き物が消えたことに気づく。


 私の目の前のゴブリンも一階層にいた人間達も。まるで違う世界に入り込んでしまったかのような、そんな感じだ。


 そしてその代わりかの様に闇が、この世界にはない異質な闇が足元より湧いてきた。


 これは、この存在は。


「久しぶりね。シュム、いや『千の子を孕みし森の黒山羊』といった方がいいわね」


 私の後ろにはエキゾチックな服装に身を包んだ女がいた。もちろんただの人間に私が背後を取られることなんてない。


 彼女は私と同格の存在だ。

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