第5.5回 卑小で矮小な嫌俗闇乃

 私は人間を憎悪している。


 16年前、私は客観的に見て最低最悪の環境で生まれた。


 母はおらず家族は私と父と四つ上の姉だけ。


 父は酒が入ると手がつけられなくなる、そんな人物だった。母はそんな父の暴力に耐えきれなくなり私が生まれてすぐに姿を眩ませたそうだ。


 父は毎日言っていた。

『お前を産んだからアイツは出ていった。だから責任を取れ』

 それがおかしいことは幼い私でも分かっていた。けど従うしかなかったんだ。


 幼い頃は家事をさせられる程度で済んでいた。しかし16になった姉が家を出ていった日から状況は変わった。


 そこから先は思い出したくもない。


 ずっと、私は姉のように逃げることも出来ずに父が死ぬまで縛られ続けるんだと思っていた。

 けど、あの日。16歳の誕生日の日に全ては終わった。


 あの日、夕飯の買い物から帰ると部屋の中から嗅ぎ慣れた匂いがした。

 私の大っ嫌いな血と男の体液の混ざった匂い。


 まさか、誰か人でも連れ込んだか誘拐でもしてきたか?と思いながら恐る恐る扉を開けると衝撃の光景が私の網膜に映り込んできた。


 死んでいたのだ。正中線で真っ二つになって真っ赤な血と腑を撒き散らして。

 そしてそのすぐ側には犯人と思しき女性が立って居た。


 見たことがないくらい美しい女性だった。


 エキゾチックな服装に身を包んでいるがその髪の毛は一本一本が蛇で構成されており背中からは悪魔のような黒い翼が生えて居た。


 顔は可愛らしいが彼女を見ると震えと冷や汗が止まらなくて恐ろしくて仕方なかった。


 少しして私に気づくと、彼女は私の方を見て言った。


「契約者さん、貴方との契約である日本国民の根絶。その第一歩として血族を皆殺しにしたのだけど問題なかったかしら?」


 何を言っているのかは分からなかった。

 契約なんて結んだ覚えはないし彼女のことも知らない。でもそんなことは関係ないのだ。


 私が私以外の人間を殺してしまいたいと思っているのは事実だから。


 だから私はこの日、嫌俗けんぞく闇乃やみのになったのだ。

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