第5回 ダンジョン挑戦邪神
「あー、あー、てすてす、てすてす」
マイク感度は良好、300万とかいう馬鹿げた大金を支払って手に入れた浮遊型カメラもしっかりと私の顔を写し込んでいる。
少し離れた所では私を憐れみと嘲り、一部は心配の目で見る同業者たち。
そう、彼らは普通の冒険者だ。ダンジョン配信者の死亡率が極めて高いことを勿論知っているから見た目はお世辞にも強そうにない私がすぐ死ぬと思っているのだろう。
下等生物が、私をお前ら如きと一緒にするんじゃない。
あ、下等生物だから上位存在が認知出来ないのかー、憐れー(笑)
「おい、嬢ちゃん。そんな格好でダンジョンに潜るなんて舐めてるのか自殺願望かのどっちかとしか思えねぇぞ」
私を馬鹿にする人間どもを逆に馬鹿にしていると突然1人の若い冒険者に声をかけられた。
確かにこいつのいう通り黒のワンピースに丸腰の私はさぞ巫山戯けた格好に見えるだろう。だがこの服は私の触手できている、下等生物如きに破壊できる代物じゃない。
「余り人を見た目で判断するなよ。私を誰だと思っている?」
私は今後行うダンジョン配信の為に今は一般犯人男性ロールプレイ中だ。
徹底したキャラ作りはヨウツーバーの基本中の基本である。中身を出すなど言語道断、そんな事をするのはキモい固定ファン持ちのアイドル系ヨウツーバーのみだ。
「悪魔のコスプレしたJCにしか見えねぇが、まさか、嬢ちゃんA級スキル持ちなのか?」
A級スキル、確か免許を取るときに言っていたな。
人間はダンジョンに入り初めて魔物を倒すと超常的能力であるスキルを得る、と。
そしてそのスキルの中でもAから Eまでのランク付けがなされているとも。
私からしたら人間如きがどんな力を得ようとドングリの背比べどころかミトコンドリアの背比べであるがな。
「いや、残念ながら私はスキルを持ってない。それは貴様らの特権だろう?」
「はぁ!?何言ってんだ、いい加減にしないとおこっ」
少しイラついた様子の男だったのだが突然走ってきた同じくらいの歳の女に思いっきり頭をぶん殴られていた。
何だ?女の方は恐怖と懐疑と焦燥の感情が見られるな。まさか…
「すみませんっすみません!この馬鹿が大変失礼な事をっ!!」
この甘美な憎悪、この極上の恐怖、この芳醇な信奉。人間がここまでの感情を持てる筈がない。
この女、恐らく私と同格のナニカの信者だ。
「…いいだろう、貴様のその態度に免じて見逃してやるとする」
私がそう言うとホッとした顔をする女。
でも、まだ安心するには早いんじゃないのか?
「あ、ありがとうござっ」
「だが、名前を教えろ。嘘をついたら此処で最高に傑作な怪物に創り変えてやるからな」
そう言ってやると顔を面白いくらいに真っ青に染める女。もはや真っ青を通り越して真紫色をしている。
盆を過ぎても放置された精霊馬みたいな顔しやがって、笑わせるなよ。
「あ、あぁ、わた、私の名前は。名前はぁ、ひっ、け、
名前を教えるだけだと言うのに泣き出してしまった。可哀想に。
それにしてもけんぞくやみの、やみのけんぞく、闇の眷属か。分かりやすい偽名だな。
重要なのは誰の、何の眷属かって事だけどあくまでも生物の支配者共や地球産はないな。
それに人と契約をする闇に関する神なんてあの女くらいだ。
「いい名前だ。よく、覚えておくよ」
そう圧を込めながら言うと「ヒッ」と細い悲鳴を上げて遂に闇乃は気絶してしまった。余りにもメンタルが弱い。
精神が軟弱なのは元からかアイツと接して削られたのか、どっちなんだろう。
そう言えば最初に話しかけてきた男の方がずっと静かだが一体どうしたんだ?
ふと思い出したのでそっちの方を見てみると。
「き、気絶しているだと?…あ、まさか最初に殴られた時からずっと?」
何だか本当に可哀想なのはこっちの方だったみたいだ。
未だに白目を剥いて地面に倒れ伏している。
…
「…ハッ!気を取り直してダンジョン探索といこうか!」
私は魔物の出るダンジョン2階層へと向かった。
気絶した闇乃と男を放置したまま。
多分、きっと、誰か助けてくれるよ。そう信じて。
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