第11話

 鈴木さんに案内され、たどり着いたのが玉石商店街だ。

 年季の入ったアーチに看板は、商店街の活気でいい味を出している。存在すらたまに忘れることがある、地元のシャッター街とは大違いだ。


「どう?すごいでしょ?」


「ええ、活気があってとても素敵ですね」


「まあ、この街にまだ大型ショッピング施設が来てないからなんだけどね」


 そう言いながら鈴木さんは迷いのない足取りで進んで行く。

 それにしても、修学旅行などで有名な商店街に行ったことはあるが、近所にあるものとして考えたことがなかったから新鮮だ。

 キョロキョロと商店街を眺めていると、鈴木さんがある店の前で立ち止まる。


「料理をするならまずはここ!本屋さん!」


「えっ、食材ではないんですか?」


「何作るか決まってるの?」


「……いいえ」


「じゃあやっぱりここだよ」


 流れるように論破された……。しかし、よくよく考えればその通りだ。ズブの素人がいきなりアレ作るからコレを買わないとなんて、わかるわけないよな。

 店内に入ってから、鈴木さんは料理本コーナーから図鑑みたいな本を手に取る。


「それでね、私のオススメはこの本かな。料理本の中ではロングセラーなんだよ。はい」


「うっ。結構重たいですね」


 手渡された本には『料理大全初心者編 上・序〜今日からあなたも料理人〜』と書かれている。こんなに分厚くて重いのに上下巻構成なのかと、さっき鈴木さんが触っていたあたりの本棚をチラ見すると上中下巻構成だったし上巻だけでも序破急の3部構成になっていた。

 料理本ってこんなに書くことあるのか?


「私は基礎をお母さんに習ったから、中級編からしか持ってないんだ。見たくなったら言ってね」


「あ、ありがとうございます」


 言われてから気づいたが初心者編の9冊の奥にさらに初級編に中級編、上級編と本棚の大部分を占拠していた。


「それではこれを買おうと思います」


「あっ。忘れてた。他にも案内したいところがあるから、重たいそれは最後に買いにこよう」


「それもそうですね」


「さあ、どんどん行こー!」


 鈴木さんは俺の手を掴んで、全身からウキウキしていますといった感じで先導してくれる。

 やっぱり、この子の距離感近いなぁ。


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 本屋を後にしてからも商店街のいろいろな店を紹介してもらった。肉屋のコロッケを一緒に食べたり、服屋で服を見たり(男物のコーナーにいきそうになって危なかった)した。

 今はさっきの料理本を買いに本屋へ戻っているところだ。


「そういえば木米さんの髪って地毛なの?」


「そうですよ。生まれた時から黒髪です」


 髪の毛の色が珍しい黒色だから気になったのだろう。よく聞かれるから慣れたものだ。

 ちなみに、150年前にあった世界大戦の後期から人間の髪色や目の色は個人の《魔力色》に影響されるようになり始めた。今では俺みたいな特殊な例を除いて、全ての人が魔力色と同系色の髪色と目の色をしている。


「へぇー、珍しいね。魔力色も黒色なの?」


「魔力色は白色なんです」


 指先に自分の白色の魔力を灯しながら答える。


「えっ⁉︎木米さんも《色違い》なの⁉︎」


「も、ということは鈴木さんもなんですか?」


「うん!私も茶髪だけど魔力色が桃色なの!私以外の色違いなんて初めて会ったかも」


「私もです」


 自分と同じ色違いの娘がクラスメイトで、しかも初日から友達になったなんて、これで俺が男のままだったら恋でも始まりそうだな。

 なんて考えていると突然、鈴木さんがもじもじし始めた。



────────────────────


設定紹介

魔力

生物の運用する魔力は、周囲のフラットな魔力を取り込んだものや、自身で生成したものである。フラットな魔力は取り込む際に、自身に扱える形に変質させることで扱うことができるようになる。その証が魔力色である。

同じ色でも他人の魔力を扱うことはできない。

魔力色は親から遺伝する(片方の色や混ざった色)が、全く違う魔力色を持つ子供が生まれることもある。

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