第12話
「それで……その、蘭ちゃんって呼んでいいかな?」
急にもじもじし出したと思ったら呼び方の話か。手を繋ぐこととかはグイグイくるのに呼び方を変えるのは躊躇するんだな……。よし、ここは俺の方からも距離を詰めるか。
「いいですよ。その代わり、私も高田さんみたいにモモさんと呼ばせてもらいますね」
「──うん!全然いいよ!よかったぁ、断られなくて……」
「こんなに良くしてもらっているのに、断る理由なんてありませんよ。──あ、着きましたね」
話しているうちに、先ほどの本屋の前まで戻ってきていた。後は、さっきの本を買って帰るだけだ。
「すぐに戻りますね」
「うん、まってる──ッ‼︎」
バッと、モモさんが振り向いた。
何かあるのかと俺もそちらを見てみるが、特に変わったものはない。俺たちの入ってきた商店街の入り口があるだけだ。
どうしたのか尋ねようとすると、焦った顔でス魔ホを確認していたモモさんが、勢いよく頭を下げてきた。
「ごめん!どうしてもしないといけない用事ができて……直ぐに行かないといけないの……」
「そうですか……私は問題ないので、早く行ってあげてください。今日はとても楽しかったです。また明日会いましょう」
「ありがとう!また明日!」
そう言うや否や、モモさんは猛スピード駆け出して行き、あっという間に見えなくなる。
あれは《身体強化》を使っている速さだな……よっぽどの急用だったんだな。
「さて、私も本を買ったら帰りますか」
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『ねぇ、ラン。ワタクシのこと忘れてないでしょうね?』
「あっ……。すみません」
ス魔ホを片手に、商店街から自宅までの道のりを覚えながらゆっくりと帰っている途中、クロディーヌが虚空から姿を現した。さっきから人通りが全くないから直接話しかけてきたんだろうが、いきなり話しかけられてかなりびっくりした。
「どうしても姿が見えないと意識しずらいんですよ。確か……適合者にしか姿が見えないんですよね?わざわざ魔術で姿を隠さなくてもいいのでわ?」
『ダメよ。姿が見えてたら気になってしまうでしょ?あなた迷惑がかかってしまうわ。それに、他の適合者にも姿が見えてしまうもの。魔法使いであることが他の適合者からバレてしまうかもしれないじゃない。それと、《
「そうなんですか」
と言うことは、急に話しかけられてさっきみたいに焦ることもなくなるのか?いや、念話があるから、やっぱりボロが出る前に慣れるしかないか。
『それにしても、意外と淑女の所作が様になっていたじゃない。朝は不安だったけれど安心したわ』
「お婆様が厳格な方で、親戚のお姉様達の礼儀作法の様子を真似てみたんです」
いつ口調を戻していいのかわからず勢いで言ってしまったが、一度もそんな言い方をしたことのない婆さんや
「それによくよく思い返してみれば、幼い時にお姉様達に着せ替え人形にされたり、おままごとに付き合わされたりしていたのでスカート経験もあったんですよ」
『そうだったの。なら、もっと完璧な淑女になれるよう細かく見ていくわね』
「よろしくお願いします」
お、もう直ぐクロディーヌと出会った公園か。あの公園、住宅街にある公園にしてはかなり広めの公園で外周に花壇やクロディーヌがいた茂みがあり、道路側に腰ぐらいのレンガの塀があるいかにもな公園だ。引越しの作業も落ち着いたし、家からも近いから明日からはあそこで朝練するか。サボると婆さんにバレるからなぁ──ん?
「何か、音がしませんでしたか?」
『そう?特に変わった音はしていないけれど……』
俺だってただの物音に過剰反応なんかしない、だがその音には何か……強烈な違和感を感じた。
立ち止まって耳をそばだてると、分厚い壁に遮られたようなこもった破砕音が微かに聞こえてきた。
「……いえ、やっぱり何か聞こえます!」
『あっ、ちょっと待ちなさい!』
一本道を駆け出すが、断続的に響く音にほとんど変化はなく、ぎりぎり聞き取れるかどうかの大きさしかしないことにさらに違和感が深まる。
公園の前に差し当たったくらいで不自然な音が急に鮮明に聞こえるようになり、すぐさま姿勢を低くながら公園の塀に駆け寄る。音の発生源はやはり公園だったようで、先ほどの破砕音や話し声が公園内から聞こえてくる。こっそり、公園内の様子を伺うとそこには、青い肌をした大男とそれと相対するように一人の少女が立っていた。
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設定紹介
身体強化
魔力は万物に宿っているが、生物の魔力は全体のごくわずかが肉体を循環しその身を強化している。その循環する魔力を意識的に増やすことで強化率を上げることができる。
魔闘法と違い劇的な強化はなく魔力を消費する技術ではない、身体機能の延長(腹式呼吸のようなもの)である。
魔力によって通常時よりも身体機能が活性化されており、とても健康に良いので身体強化状態を維持したまま生活する人間も存在する。しかし、維持し続ける(常に意識して循環させるか、無意識化でもできるようにする)のは困難なうえ、上昇した身体機能での力加減まで覚える必要があるため、ほとんど存在しない。
TSキマイラ 鞘野 雄也 @Yuya_Sayano
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