第9話

「そういえば木米さんって越してきたばっかりなんだよね?あっ、その教科書は次使うよ」


 鈴木さんの自己紹介が終わった後、俺の教科書の仕分けを手伝ってもらっていた。

 鈴木さん、凄くいい人だ。助けてくれるし、手伝ってくれる、このクラスに転入してきて早々感謝しっぱなしだ。


「それで、よかったらなんだけど放課後に街の案内をさせてくれないかな?」

「えっ、良いんですか!?学校のことでもいろいろと助けていただいたのに……」

「木米さんともっと仲良くなりたいから──」

「間に合ったー!はぁ、よかった〜」


 移動教室ということもあり俺と鈴木さんだけの教室に突然、扉を勢いよく開け1人の女生徒が飛び込んできた。

 夕焼けのような髪色をしたその少女は、よほど急いでいたらしく肩で息をしている。


茜里アカリちゃん?今までどこに行ってたの?もうすぐ授業だよ」

「いやーまたお腹下しちゃってさー」

「また?」


 どうやら彼女は鈴木さんの友達のようでにこやかに話し始めた。

 今のうちにと仕分けした教科書を机にしまっていると、話題が俺の話に移ったようですぐそばに近寄ってきていた。


「確か……木米さんだっけ。アタシ、高田タカダ 茜里アカリ。よろしく」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「それじゃ、修練場いこっか」


 鈴木さんの呼びかけで俺たちは教科書を持って廊下に出て、修練場へ向かう。


「二人ってさっきまで何話してたん?」

「放課後に街の案内をさせてもらえないかなって話をしていたの。そうだ!木米さん、放課後大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「茜里ちゃんは?」

「アタシは用事があるからパスで」


 今日は放課後に街を散策しようと思っていたから、ちょうど良かった。

 やっぱり、ガイドがあるなしじゃ大違いだからな。ありがたい。


「それでは、放課後楽しみにしていますね」

「任せて!」


 放課後が格段に待ち遠しくなってきた。早く、放課後にならないかなぁ。

 いやいや、念願の授業がこれから受けられるんだから気合いを入れないと。


────────────────────


 前の高校ではあまり授業を受ける機会が無かったので、高校の授業について行けるか少し心配だった。

 しかも、この魑魅高校も自身で選んだ高校ではなく、俺の病気の研究するのに施設が近くて便利だからという理由だけで選ばれているので、俺の学力は全く考慮されていない。

 だが、それ以上に楽しみな気持ちの方が優っていた。


 そう、優っていたんだ


 俺が前の高校に通っていたのは僅か数日。

 TS病(当時はTSF病だとわかっていなかった)を発症、検査などで入学早々連続欠席、手続きを終えて登校すれば問題を起こして即停学。

 引っ越しを最速で終えても、入学式から3週間は経っていた。


 つまり──


「授業が全くわからない」


 トイレの個室でそう呟く。

 今は、昼休み。鈴木さんと高田さんに食事に誘われたが、淑女モードを解きたかったので先にトイレにきていた。


『敬語が崩れてるわよ』

「っ⁉︎」(いらっしゃったんですか?クロディーヌ)

『近くで待機してるって言ったでしょ?』


 それはそうなんだが、トイレまでついてきていると思わないだろ。普通。


『それより。貴女、転校生だったのね』

(あれ?言っていませんでしたっけ?)

『言ってなかったわ。報連相はしっかりしなさい。……どんなことになるのか、わからないのだから』


 クロディーヌは自身の言葉で落ち込んだかのように、話している途中から明らかに声のトーンが下がった。


(大丈夫ですか?)

『気にしないで。ほら、待たせてるんでしょ?早くしなさい』


 結局そんなに休憩はできなかったが、後は2限だけだ。頑張ろう。



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設定紹介

魔術

魔術は基本的に実体のないもの(炎、風、光、データなど)の発生、制御、干渉を得意としている。

逆に、実体や重さがあるものに関しては軽微な干渉しかできない。水流を作るだけなら魔力消費は少ない(得意分野の数倍の魔力消費)、水を操っての水撒きはまず一般人には不可能(風の魔術で水を巻き上げる方が現実的)。

魔術実技の授業は、対魔術障壁の発生を咄嗟にできるようにする授業。(実体のある物理攻撃や水、砂は透過する)

補足:魔術実技は小・中・高・大どんな学校でも実施されている。

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