第2話

 今日が初登校ということもあり、俺は緊張で予定より早くアパートを出た。見慣れぬ街並みに心躍るが、いかんせん学校までの道のりがわからない。


「歩きス魔ホ嫌いなんだけどなぁ。初日から遅刻したくないしなぁ。しゃーないしゃーない」


 独り言で自己弁護しながら、ス魔ホの地図アプリを起動し、指示通りに学校への道のりを進んでゆく。どんな自己紹介が良いのか、考えながら住宅地を歩いていると、大きな公園があった。

 その公園は大きな木が道路側にあったり、茂みが多かったり、今時珍しいくらい死角が多数ある。

 よく今までこの姿を保っていられたなと考えていると、そんな公園から少女の声が聞こえてきた。


「優等生のワタクシが!なんであんな劣等生に負けてるのよ!ワタクシの方が優秀なのに!」


 尋常じゃない怒りの声に、思わず足が止まる。

 聞いた部分だけで考えると、どうやら声の主は学業のことについて悩んでいるらしい。成績は悪いけど、部活は天才的なクラスメイトに負けているとかだろうか?

 登校中と言うことも忘れ、引き寄せられるように公園の中に入っていく。


「まずこの町が悪いのよ!契約できる人間がこんなに見つからないなんて!そうでなければ、高貴なワタクシがあんな劣等生に負けるはずないじゃない!」


 声からは大人という感じはしないが契約ってことは社会人なのかも……。いや、大人とか関係なく、助けになれるならなりたい。


「すみませーん。どうかなさいまし…た……か?」


 声かけながら、声の発生源の茂みを覗き込むと、前足で木の根本を引っ掻いている、猫っぽい黒いナゾ生物が居た。

 あれ?場所間違えた?と考えていると、黒猫(?)はこちらに振り向いた。


『あら?ワタクシのことが見えるの?ニンゲン』

「っ!?」


 直前までのことがなかったかのように、黒猫(?)は俺を見上げて驚いたような声で問いかけてくる。


 ──いやいやいや!?どうなってんだ!?聞き間違い?ドッキリ?

 動物が話しかけてくると言うファンタジーな状況に、混乱しながらも思わず周囲にカメラがないか探してしまう。しかし、何も見当たらない。


『高貴なワタクシに話しかけておきながら、無視をするなんていい度胸ね?』

「ご、ごめんなさい」


 混乱しているところに話しかけられ、これ以上無視すれば黒猫(?)に失礼になるという思考に陥り、ドッキリの可能性も忘れて謝る。


『いいわ、許してあげる。それで、何か用?』

「えっと、なにかお困りごとですか?公園の外まで声が聞こえたもので……」

『それは失礼したわね、ニンゲン』


 意外と普通に話ができていることに安堵しながら、思考はなぜ黒猫(?)と話せているのかに傾いていく。

 思い当たるのは、俺の病気を研究しているあの人・・・が言っていた、俺の《F》が猫科っぽいということだけ。と言うことは、俺が猫(?)と話せるのも不思議ではない……のか?

 考えてみるが答えは出ず、黒猫(?)が話し始める。


『それでワタクシが何かに困っているかだったわね?』

「あ、はい」

『いいわ。教えてあげる』


 黒猫(?)は偉そうに胸をそらしながら、説明を始める。

 四足動物なのに意外と動きが人間っぽいなぁと考えながら、聴く姿勢をとる。

 

『ワタクシ、人探しをしているの。でも、ただのニンゲンじゃダメなのよ』


 同じ場所を行ったり来たりしながら黒猫(?)は説明を続ける。


『ワタクシみたいな、一部のニンゲンと《魔力的同調シンクロ》を行える《精霊》と、精霊との魔力的同調によって魔法を使えるようになるニンゲン……《魔法使い》じゃないといけないの。確かニンゲンたちには……《巫女》って呼ばれてたかしら?』


 精霊!?巫女!?

 昔に絵本で読んだ、巫女と協力して悪き存在を打ち倒したっていう、あの精霊!?童話じゃなかったのか!?って、待て待て待て!?それじゃあその精霊がいるってことは、《悪しき存在》もいるってこと!?

 驚きの連続で思考がフル回転するが、聞き返したいのに言葉が出ない。そして、その間にも説明は続く。


『それで、その魔法使いが見つからなくて困っていたのだけれど、さっき解決したのよ』

「へ、へぇ。そ、それはよかった〜」


 なんとか返事は返せたが、動揺で声がメチャクチャ震える。それになんだか嫌な予感がする。


『ホント、よかったわ。ワタクシの適合者さん』


 今度こそ返事を返すことができなかった。

 俺の、平和な高校生活が……。



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設定紹介

スーパー魔導本

通称:ス魔ホ

科学技術を修めた者の称号、科学者アルケミストと魔導技術を修めた者の称号、魔導師ウィザードの両方の称号を持つ賢者セージが作り出した現代技術の集大成。

今まで分厚い魔導本を携帯するか、魔法陣を完璧に暗記するしかなかった、魔導界に革命をもたらした魔導機械(魔道具と機械が合体したもの)。

魔法陣をデータで記録し、画面上に魔法陣を表示することで携帯性の問題を改善し、検索機能を使い、魔法陣を即座に呼び出せるようになった。

攻撃用の魔法陣は基本的に登録できない。

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