未知との遭遇
彼だった肉塊の背後にギリシャ数字が刻まれた時計が何処からともなく現れ、通常では考えられない速度で針が巻き戻る、それに連れて彼の肉体が、落下によって潰れた直前の姿まで巻き戻る。
彼は起き上がり重いため息を吐いた
「やっぱり死ねなかった……。」
そんな抑揚のない声で天を仰ぎ呟いた。
「ん?」
そして、彼は背後を振り向いて、とある違和感に気づいた。
彼の視界に映った空間だけ蝋燭の炎のように揺ら々らと空間が歪んで見えたのだから。
「そこに誰かいるのですか?。」
その歪んでいる空間を訝しげに視線を飛ばしながら問いかける。
「あら、良く分かったわね。」
そんな、声音の高い返答と同時にその歪んでいた空間が開き少し長身の女性が現れた
。
「あなたは?。」
その歪んだ空間から現れた女性に彼は問いかける。
「私の名前は、ウタウスと言うわ。」
「単刀直入に言うわあなたを、私達の世界に招待しにきたわ。」
「その、私達の世界とは異世界みたいな物ですか?。」
「当たらずとも遠からずよ」
彼女はそんな意味深な発言をするが……。
「そうですか」
彼女は彼の言葉の続きを待つが…
「…………」
彼は何も喋らず沈黙したままだった
その様子に少し彼女は困惑してしまった、それもそうだ何か質問してくると思い黙っていたが、当の本人が何も話さないのだから
彼女はもしや……と思い言葉を紡ぐ
「……もしかして今の話信じていないのかしら?」
「そうではないです。」
彼はキッパリと彼女のその発言を否定した。
「では、何故、何も言わないのかしら。」
そうだ、嘘だと思うから何も話さないのかと思っていたが、今の彼の発言からしてどうやら違うらしい、だから彼女は彼の今の発言の真意を問い正したかった。
「どうでもいいからです。」
「はっ?」
彼女は彼の予想外な発言につい素っ頓狂な声をあげてしまった。
「僕は自分が死ねれば、それ以外はどうでも良いんです。」
彼女はそんな彼の発言に驚愕する。
今まで色んな人を招待してきたが、「本当か?」と疑ったり「やったー」と喜んだり
多種多様の反応を示してきたが、
[どうでもいい]
そんな発言をした人は彼だけだったのだから。
「面白いわね、貴方」
(あの人が招くように指示した理由が少しだけ分かった気がするわ)
心中で彼を招くように指示した彼女の事を思い出しながら笑みを浮かべる。
「貴方が自殺する事以外には興味も関心も示さないのは事前に調べていて分かってはいたけど。」
「異世界に来てみない?と言われてどうでも良い、何て返答が来るとは、本当に興味も関心も無いようね。」
「………」
その発言をされても心底どうでもよさそうな事が彼の目を見て分かった。
「まあ、良いわ」
「改めて自己紹介させてもらうわ、
私の名前はウタウス貴方と同じ能力を持った人間よ、改めて、貴方、私達の世界に来る
つもりはあるかしら?。」
そんな彼女の言葉に溜息を吐き出すように彼は返答する。
「……好きにしてくれ」
「一応警告しとくわ、一度向こう側に行ったら戻って来れないわよ?。」
「この世界に僕の居場所は無いですから…」
「……そう」
彼女は片手を大きく上げ、何も無い空間から
全く別の世界が確認することができる。
「今から貴方が行く世界について説明するわ、先に言って置くけど貴方みたいに能力を持った人間達しかいないわ。」
「…そうですか。」
「他にも違う事は多々あるけど…」
「貴方は興味が無さそうだから省かせてもらうわ」
「……」
「そして……、これが貴方にとって
一番重要だと思うけど、あちら側に行けば、
貴方の願い…叶えられるかもしれないわよ」
「……」
彼は俯いて何も話さない。
「あれ?無反応?」
「本当に」
「えっ……?」
「本当に僕を殺せる存在が
いるんだろうな。!!」
彼女は一瞬、目の前にいる彼が同一人物か
疑った…、特別髪を切ったり、姿が変わったわけでも無いだが、彼は先程までと打って変わって笑顔だった、だがその目には光が無くその笑みは、その姿は狂気そのものだった…
「……」
その姿に少し固まってしまったが流石色んな人を見てきた人間なだけあるかすぐにいつもの平然を取り戻した。
「だからこうして誘っているのよ」
「そう、か」
彼はその言葉を吐いた瞬間、先程までの狂気的な笑みが収まり少しずつ落ち着きを取り戻した。
「…はぁ」
彼女に対して心底申し訳なさそうにため息を吐いた。
「すみません、取り乱して」
そんな彼の姿を見て
(面白い…)
(今まで色んな人間を見てきたけど、一番面白いわ、生に執着せず、死に執着する人間…)
彼女は一人、心の中で呟いた。
「やっぱり面白いわね、あなた」
満面の笑みで彼に返答する。
「それじゃ、ここを通ればあちら側に着くわ」
「それでは……」
「さようなら、次があれば良いわね。」
「次が無い事を祈っておきます」
そうして、新たな世界に一人の少年が招かれた。
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