第13部分
「それで、冒険者になるにはどうすれば良いのかしら?」
ひとしきり笑ったアイシスがタチバナへと問い掛ける。今までの情報を総合して考えた結果元のアイシスは真面目に冒険者になる為の努力等はしていないだろう、という読みからの発言であるが、その読みが外れたとしても今のタチバナなら答えてくれるだろうという信頼もそこには込められていた。
そんなアイシスの言葉を聞いたタチバナが溜め息を一つ吐く。今までのタチバナであれば、というより使用人の主人の問いに対する態度としては考えられない態度であるが、それを見たアイシスはただ嬉しさを感じていた。
「……それでは折角ですので、冒険者についておさらいして行きましょう。お嬢様、先ずは今私達が滞在しているこの都市が何故この場所に在るのかはお分かりですか?」
自身の希望通りにタチバナが説明をしてはくれたものの、まさか出題形式になるとは。そう思ったアイシスが頭を抱える。おさらいと言うのだから一般常識レベルな可能性は有るが、恐らく元のアイシスは授業を真面目に聞く様なタイプではなかったという可能性に掛けてアイシスは沈黙を貫く事にする。そもそも当然ながら彼女には答え様が無いのだが。
「……答えは付近に魔物が居ないからです。……まあ基本的には、ですが。この都市に限らず、大体の都市の周りには魔物が居ないか、居ても危険度の低い魔物が少数という程度です。ではお嬢様、それが何故かはお分かりになりますか?」
魔物。それが当然の様に存在するという事でアイシスは僅かに残っていたタイムスリップの類の可能性を排除し、自身が異世界に転生したと確信する。とはいえ既に不思議な体験は済ませていたので特に驚いたりする事はなかった。
それよりも、とアイシスはタチバナの問題について考える。知識としてはアイシスに答え様が無いのは先程と変わらなかったが、今度は考える手がかりはある。前世では色々な事を諦めざるを得なかった彼女だが、それ故に今度はそうそう諦めるという事はしたくなかった。
「魔物は人が大勢居る所には近付かないから、かしら」
そんなアイシスが正解を知らない人間の大体は辿り着くであろう回答をする。
「惜しいですね。確かに大体の魔物は人にむやみには近付きませんが、仮にウェアウルフの群れに人間が大勢で近付いたらどうなるとお思いになりますか? つまりはそういう事です。元々魔物が居ない、或いは少ない場所を選んで都市が作られたのです。だから都市の付近は魔物が少ないのですね」
成程、とアイシスは納得し、そして一つの答えを見出した。生前は読書ばかりしていた少女はミステリーの類もそれなりには読んでおり、少ない情報や手がかりから別の情報を導く事には慣れているのだった。
「成程。つまり逆を言えば都市から離れる程に魔物も多くなって危険という事ね。そういう所に出向くのが冒険者という事でしょう」
「見事な考察、流石の聡明さでございますね。尤も、多くの人が既に知っている事ではございますが」
アイシスの会心の推測に、タチバナが褒めつつも嫌味を混ぜて答える。それに対してアイシスは苦笑いを浮かべるが、タチバナと自身の関係の変化を感じての嬉しさもその笑顔に混ぜていた。
「仰る通り、冒険者とは都市の外、正確には人間の生活圏の外へと冒険に出る者全てを指す言葉です。但し、その生き方や目的は千差万別です。一攫千金を夢見る者、仕事として堅実に熟す者、冒険そのものを目的とする者。魔物と戦う事を好む者も居れば魔物を避けて鉱物等を探す者も居ます。無論、勇者様の様に人助けや魔物の討伐を目的とする者も。しかしその殆ど全てに共通する事があるのですが、お嬢様はお分かりでしょうか」
タチバナの語りをわくわくしながら聞いていたアイシスは突然の問い掛けに少々驚くが、直ぐに思考を始める。当然だが例によってアイシスにはその知識は無いので思考によって答えを導く必要がある。冒険者の共通点……冒険をして生きている……そう思考を辿ったアイシスが答えを導き出す。
「冒険で得た何かを売るなりして生計を立てているという事ね。冒険を続けるにはお金が必要だもの。でもどうして殆どなのかしら? そうでない人達はどうやって冒険者を続けているの?」
「……流石です、お嬢様。冒険者でない一般人は基本的に都市付近の人間の生活圏の外にはごく近くを除いて出る事が出来ません。ですのでそういった所から様々な素材等を持ち帰れば生きていくのに十分な収入を得る事が出来るという訳ですね。他には誰かの護衛をしたり、依頼を熟したりとその技術そのもので生計を立てている者も居ます。勿論、その両方をしている者も。そしてその例外は……お嬢様を脅かすような事になってしまうので少々口にし辛いのですが……」
「……敵は魔物だけとは限らないという事ね。まあ冒険者については大体分かったわ。それで、実際に冒険者になる為にはどうすれば良いのかしら?」
タチバナの説明により冒険者については理解したアイシスだが、結局これからどうすべきかは分かっていなかった。元々は長い病院暮らしだったのだから仕方が無い事ではあるが、それを知る由も無いタチバナは再び溜め息を一つ吐くのであった。
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