10
三日目の朝が来た。朝なんて来てほしくなかった。板が打ち付けられた窓から微かに漏れる朝日を、二人は憎んだ。
二人はホテルを出ると、また上野に向かった。
「ねぇ?上野以外には行かないの?」
「あんまり調べなかったから、この辺しか詳しくない……」
「あたし、明日は下北沢?ってとこ行ってみたいな〜」
「じゃあ行ってみようか。でも知らない場所に行くのってちょっと不安だな……」
「大丈夫!あたしがついてる!泥舟に乗ったつもりでいなさい!」
「泥舟か〜」
二人はコンビニで弁当を買って、不忍池に向かった。途中、ホームレスの集団とすれ違った。そのほとんどはケモノだった。二人はなるべく彼らを見ないようにした。
不忍池の畔のベンチで、二人は弁当を食べた。ニノは池なんてほとんど見ずに、一心不乱に弁当をかきこんでいた。ニノは昨日吐いたうえに四川料理も少ししか食べなかったので、とてもお腹が空いていたようだった。ナギは自分の分の弁当もニノに食べさせた。
ニノが弁当を食べ終わると、二人はぼーっと池を眺めた。冷たい風が水面を撫で、そこに映るビル街を細切れにしていった。二人はなんだか切なくなってしまった。
「なんかのどかだね〜」
何かをごまかすようにニノは言った。
「僕、ボートに乗ってみたいな」
「えっ、あたしもそう思ってたんだ〜」
彼らはアヒルさんボートに乗った。アヒルさんボートは意外と操縦が難しく、彼らのボートは池の中心でくるくる回り続けた。
「ちょっと。そっちちゃんと漕いでる?」
「漕いでるよ!」
「そっちこそちゃんと漕いでるんだろうな」
ボートを漕ぎ終えた二人は、疲れてベンチに座り込み、肩を預け合った。ニノはナギの身体がなるべく冷えないように、しっぽを彼のお腹の上においた。優しい冬の陽光が彼らを包んでいた。彼らはそのまま昼寝した。
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