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動物園から出ると、辺りは暗くなっていた。二人は上野駅から山手線に乗り、池袋駅に向かった。
二人は池袋駅の北口から出ようとしたが、北口は全く見当たらなかった。見当違いの場所を散々うろうろした挙げ句、ナギはよそ見をして人とぶつかってしまった。
「おい、てめぇ!」
その人は見るからに気が荒そうな男性で、漁師よりさらにガタイが良かった。男性はナギに掴みかかろうとしたが、隣にニノがいることに気づくと青くなった。
「おい、おっさん」
ニノはそう凄むと、男性の襟首を掴み、片手で宙に持ち上げ、そのまま落とした。男性は尻餅をつき、その場にへたり込んだ。
「行こう」
ニノは言った。
駅員に話を聞くと、池袋駅の北口は、西口(北)に名称が変更されていたことが分かった。駅員の案内通りに通路を進んで、二人はようやく駅から出ることができた。
池袋駅の北側は、中華系の飲食店でいっぱいだった。これもニノの趣味だった。ナギは、『ブレードランナー』で見た町の風景を思い出していた。そこかしこに漢字だらけの看板が光って、不思議な魔力で二人を誘っていた。
「漢字ばっかりで意味わかんない。あたし、中国に生まれなくて良かった〜」
そう言いながらも、ニノは看板の一つに惹かれたようだった。
「これは、四川系のお店……だな」
「火?これってなに?」
「これはヒナベって読むんだと思う。辛そうだな」
「え〜っ、辛いの?あたし、食べてみたい!」
二人が選んだのは、知音食堂という、雑居ビルの地下一階にある四川料理店だった。二人はおそるおそる階段を降りた。下に向かうにつれて香辛料の香りが強くなった。扉をそっと開けると、提灯のようなものがたくさんぶら下がっているのが見えた。店内は、黒と赤を基調とした、シックな中華系の造りになっていた。二人は席についた。
「あたし、これ食べてみたい!」
ニノは麻婆豆腐を指さした。
「僕はこの担々麺ってやつを食べてみたいな」
二人は麻婆豆腐と担々麺を半分ずつ分け合って、回し食いし始めた。
「なんだ、このぐらいの辛さなら余裕だな」
そう言っていたニノの顔は、どんどん赤くなっていった。
「辛い……辛すぎる……」
ニノは涙目になっていた。
「そうか?僕は平気だけどな」
「もう食べられない……ナギ、全部食べて!」
結局、ナギが1.5人分ぐらい食べたので、彼のお腹ははち切れそうだった。
「あたし、四川料理屋さんにはもう行かない!」
「お前が行きたいって言ったんじゃん……」
「ところで、今日はどこに泊まる……?」
「あたし、あのお城がいいな〜」
「じゃあ、西川口に戻るか……」
二人は来た道を戻り、再び同じラブホに入った。相変わらずフロントには誰もいなかった。二人は昨日と同じように裸になって、抱き合って眠った。
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