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ニノとナギは、いつもみたいに廃舎で抱き合っていた。二人の息はまだ少し荒かった。ナギは汗をかいていた。ナギの汗が、ニノの体毛を湿らせた。それから二人は、かわりばんこにペットボトルの水を飲んだ。ペットボトルの水に、二人分の唾液が溶けて混ざった。
「これから寒くなったら、ここでするのは無理だな」
「え〜っ?じゃあどうすんのさ」
「どうしようもないよ」
もうすぐ、長くつらい冬がやって来る。そして、その次は……
二人は考えるのをやめて、暗い顔で廃舎の天井を眺めた。
それから、風はどんどん冷たさを増し、そのたびに制服の厚さが変わり、山の白樺の葉は全て落ちた。やがて、彼らの世界は真っ白な雪に埋められていった。雪は彼らの将来に重くのしかかる呪いのようだった。そこから二人で出て行く力を、彼らは持たなかった。
「ねぇ、ナギ」
「なあに?」
「雪のない世界に行ってみたいね」
「それってどこ?」
「わかんない……」
ニノとナギはこたつで蜜柑を食べていた。
『柑橘類はヨーロッパでは南への憧れを象徴する』という、何かの本で読んだ文章を、ナギは頭の中で反芻していた。
二人の閉じた日々は無為に、ゆっくりと、しかし刻一刻と過ぎていった。雪はどんどん深く、冷たくなっていった。
そして、受験シーズンがやってきた。
******
「一生ふもとでじゃがいも作んのかな、ヤダなぁ」
「ねぇ、聞いてる?」
「一緒に逃げよう」
唐突にナギは言った。
「逃げるって、どこに」
「東京」
「二人で、東京に行こう」
ナギの提案はこうだった。まず受験を理由にナギは札幌まで行く。そして、ニノはナギを応援するという口実でナギに着いていく。受験当日、ホテルから出たニノとナギは、受験会場に向かわずに、そのまま飛行機に乗って東京に逃亡する。
「そんなに上手くいくもんかねぇ」
「大丈夫、きっと上手くいく。そうなるように僕が準備する」
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