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「おはよう、ナギ」

「おはよう、ニノ」


ナギはニノに駆け寄った。ニノの耳がぴょんと立った。それはナギだけに通じる、ニノが嬉しいときの意思表示だった。

そこは、いつもと変わらない始業前の教室だった。朝日を浴びて輝く机や椅子は、みんなどことなく幸せそうに見えた。

二人がしばらく談笑していると、その幸せに影をさすように、ガラガラと扉が開いて教師が入ってきた。


「おい、授業が始まるぞ」


彼は低い声でそう言い、黒板の前に立った。彼は短髪で、いかにも健康そうに日焼けをしていて、嫌にガタイが良かった。彼の厳つい風貌はどことなく漁師みたいだったので、二人はこっそり彼を漁師と呼んでいた。


「……であるからして、これが二次方程式の解の公式だ」

「おい、獣人」

「お前、解いてみろ」


ニノが黒板の前に立った。ニノのチョークを持つ手は微かに震えていた。ニノは一分ほど悔しそうに黒板を睨んだあと、「解けません」と言った。ナギはニノから目をそらした。


「やっぱり獣人には無理だな」


「やっぱり獣人には無理だな」が漁師の口癖だった。実際、ケモノの平均IQは人間を大幅に下回っていた。もちろん社会では、表向きケモノを差別してはいけない事にはなっていたが、こんな僻地でそのような理屈が通るわけがない。


「ナギ、解いてみろ」


ナギは俯き顔でその問題を解いた。


「お前の偏差値なら、北海高校も余裕だな」

「先生は誇らしいよ」

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