ただ、私たちがそこにいたことを残したくて

星宮獏

一章

1

「ナギはここ卒業したらどこ行くの?」

「札幌の高校に行く」

「ナギは頭いいもんね」

「ニノはどうするの?」

「あたしはケモノだから高校は無理かな」

「カズさんがふもとで農業の会社やってるから、そこに入れてもらうよ」

「えーっ。あいつケモノ超嫌いじゃん」

「ケモノ雇うと国からホジョ?がもらえるんだってさ」


ニノとナギは、裸で抱き合って話していた。


ニノは、耳からしっぽまで、全身がふわふわの体毛で覆われていた。陽を浴びて、ニノの体毛は収穫前の小麦のように光っていた。

ナギはその体毛の暖かな感触が大好きだった。


対照的に、ナギの肌はほとんど毛がなく、とても滑らかだった。陽を浴びて、ナギの肌は真冬の新雪のように光っていた。

ニノはその肌の冷たい感触が大好きだった。


「ナギの汗ってなんかいい匂いだね」


ニノはナギの耳元でささやいた。ケモノ特有の生っぽい匂いが漂い、ナギは少しドキドキした。


「ほんと?自分ではよく分かんないな」


ナギは自分の性器からコンドームを外すと、靴紐でも結ぶようにくるりと縛った。


「ケモノは汗かかないよね」

「あたしたちにはカンセン?がないからね」


「ねぇ、ナギ」

「帰りたくないよ」

「でも、今日は家の手伝いしないと……」

「……ごめん」


二人は服を着ると裏庭に出て、そこにコンドームを埋めた。そこは二人が精子の墓場と名付けている場所だった。


「命を無駄にしやがって。罪な男だねぇ」

「お前がいっつもしたがるんじゃん」


そこは北海道の僻地の、廃校寸前の中学校だった。生徒は彼ら二人だけで、その彼らも今年度で卒業だった。九十年前からあるというその学校は、もうすぐ息を引き取ろうとしていた。

彼らはB棟と呼ばれている使われなくなった廃舎で、よくセックスをしていた。


「じゃあね、また明日」

「うん……」

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