お尻と勧誘

 マリアさんが普段いる教会にお邪魔した。

 教会はボクの家から徒歩3分の場所にあった。

 礼拝堂のある建物があり、隣に小さな宿舎がある。


「ここまで来れば大丈夫です。公僕は治外法権できませんから」

「はぁ、はぁ、……おえぇ」


 マリアさんの後を追いかけ、走り回ったボクは体力の限界だった。

 修道服は動きづらそうに見えるが、意外と生地の伸縮性は抜群だった。

 礼拝堂に駆け込んだボクはベンチに座り、背もたれに体重を預ける。


「いつもあんなことしてるんですか?」

「はいっ! 煩悩を宿したおっさんは、時として獣になります。わたしは、そんなおっさんを一匹残らず葬り去るために、神命として撲滅活動をしているんです」


 言ってることが殺人鬼の言い訳なんだよな。


「どうですか? 国際的に行われている煩悩破壊に、あなたも参加しませんか?」


 するわけない。

 マリアさんは素敵な笑顔で手を差し伸べてくるが、もはや宗教を通り越して人間の恐ろしさを垣間見てしまう。


「しませんけど。……でも、なんか、あのおっさん様子が変でしたね。憑き物が落ちたみたいになってましたし」

「煩悩に憑りつかれていたんですよ。煩悩を宿すと、筋肉が膨れ上がって、理性を失います。獣です。そうならないように、わたしや他の者が退治するのです」


 なんか、魔法少女とか、そういうノリに聞こえてきた。

 怪人=おっさん、の図式なんだろうか。

 普通なら死んでてもおかしくない怪我をしていたはずが、中途半端に回復していたし。ボクが知らないだけで、世界は妙な変化を遂げているのかもしれなかった。


「ふう」


 マリアさんがボクの上に座ってくる。

 柔らかくて大きなお尻が下腹部に乗り、ボクは驚いた。


「あ、あの」

「はい?」

「……どいてもらえません?」

「改宗するなら……」


 ――おい。


 マリアさんの住処にお邪魔したと思ったら、物理的に交渉してきやがった。


「ふんっ! ぐぬぬっ。お、も」

「むう。そこまで重くありませんよ」


 そもそも身長が違うのだから、体重差があるのは当たり前。

 しかも、ボクの場合は筋力がないので、むっちりとした尻をどかすことさえできない。


 必死の抵抗をしていると、マリアさんが首だけで振り返り、ジッと見てきた。


「ふふ♪」


 ぐりっ、ぐりっ。


「んああああああああっ!」


 お尻を前後に揺さぶり、さらに体重を掛けてくる。

 ボクが苦しんでいると勘違いしているのだろう。

 甘い刺激が下腹部の一点に集中し、ボクは頭を抱えた。


「神道なんて古臭いですよ。さ、改宗してください」

「は、はぁ、……あが、宗教に、古いも何も……」


 ぐりぃっ。


「んのおおおおおっ!」


 ズボン越しにお尻の温もりが伝わってくる。


「はぁ、はぁ、……き、キリスト教? カトリックですか?」

「いいえ。国際煩悩破壊宗派です」

「聞いたことねえんだけど! 何を祀ってるんだよ! 悪魔か!」


 尻をペチペチ叩くと、マリアさんが嬉しそうに笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る