夜の訪問者

 夜、家でエッチなゲームをしている時だった。


「あれ。ここのステージ、シスター強すぎない?」


 パソコンの画面には、マイクロビキニの上に修道服を着たシスターが映っている。両手にはチェーンソーを持っており、ボクの操作するキャラは素手だった。


『うおおお! 乱暴してやる!』


 いや、いくら相手が女の子といえど、手にチェーンソーを持ってる子に対して素手はないだろう。ナイフでも勝てない。

 しかも、相手のシスターは退役軍人との事で、素人ではなかった。


「くそ。触れただけで、出血ダメージが。くそ! これ、もう、エッチなシーンどころじゃないよ! エッチに突入する時には血だるまになってるよ!」


 キーボードを乱暴に叩き、必死にシスターの服を脱がそうとする。

 しゃがんで突っ込めば、顔に膝が入る。

 ジャンプをすれば、切り刻まれる。

 ヒット&アウェイを繰り返すと、相手がフェイントしてきて、必殺を決められる。


「あああああああああ! もう、駄目だ! やってらんねえよ!」


 絵が好きで始めたゲームだが、思うようにいかず、ボクは頭を掻きむしった。というか、エッチなゲームなのに、どうして難易度が超激ムズなんだ。


 性的なHではなく、地獄の方のHだった。


 ピンポーン。


 ボクがムシャクシャしていると、インターホンの音が鳴った。

 まあ、親が出るだろう、とボクはゲームの続きをやる。


 ピンポーン。


「あれ? 母ちゃん帰ってきてたよな」


 仕方なく、椅子から腰を上げ、ボクは部屋を出た。

 自室から出ると、壁のスイッチを入れて、明かりを点ける。

 その間も、インタホーンが鳴り続けていた。


「はーい」


 階段を下りて、真っ直ぐ玄関に向かう。

 玄関の扉には曇りガラスがはめられているのだが、ガラス越しに客人のシルエットが薄く見えていた。


 女の人だろうか。


 扉の鍵を開けて、取っ手に触れる。

 その時だった。


 ガラッ。


 ボクが開けてもいないのに、向こうから扉を開けてきやがった。


「どうもぉ」


 扉の向こうには、マリアさんが立っていた。

 にこにこと笑みを浮かべ、手を振る。


 夜なのに、宗教勧誘にでもきたのだろうか。

 驚いたボクはすぐに扉を閉めようとするが、それよりも早くつま先が差し込まれる。


「な、ちょっと!」

「さっき、お母さまが外出するのを見かけまして。えへへ。来ちゃいました♪」

「確信犯じゃん!」


 親がいないところを狙ってくるとか、危険なにおいがプンプンする。


「何しにきたんですか!」

「警戒しないでください。わたし、考えたんです。どうしたら、セイチくんに神の存在を信じてもらえるか」

「執着するなぁ」


 宗教家って変な所で粘り強いよなぁ。

 ネバーギブアップの精神が見受けられるのだが、もっと良いことに使ってほしかった。


「わたしの活動を見てもらえば、きっとセイチくんも神を信じるようになるはずです」

「あの、ボク、神様の存在を疑ってるわけではなくて。宗教に入りたくないんですけど。つか、ウチ、神道なので」

「許しません♪」


 きっと、未来永劫にわたり、宗教戦争はなくならないだろう。

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