マリアさん

 ボクとオサムくんは、シスターにラーメンを奢ってもらった。

 ついでに、親御さんが迎えに来るまで、名も知らない幼女にもラーメンを奢っていた。


 お金はどうしたのか?

 シスターがおっさんの財布からお金を抜いている現場をボクは目撃した。


「わたし、マリアと言います。教会では、シスター・ジェノサイド・マリアという名前で通っています」

「ほう。ふつくしい名前ですね」

「おかしくね? ジェノサイドって単語入ってんだぜ?」


 通称、マリアさん。――は、大盛りの味噌ラーメンと餃子が三人前、チャーハン大盛りを頼み、ワクワクした様子で料理ができるのを待っていた。


「さっき、醤油ラーメンを食べたんですけど。本当に美味しいですよね」

「はは。そうなんですよ。ここ、地元でも超人気の町中華でして」


 


 大食い選手権でも見てるのかな、って錯覚するほど、マリアさんは大食いだった。フードを取ると、サラサラとした綺麗な金色の髪が垂れて、オサムくんは顔を近づけて、大胆に匂いを嗅ぐ。


 ボクは先に目の前に置かれた小盛りの塩ラーメンをすすり、マリアさんを見る。


「じーっ」

「ん、ぶふっ」


 マリアさんが見ていた。


「な、なんですか?」

「はい。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「俺。向江オサムです。よろしく」


 間に入ってオサムくんが握手をする。


「宗派は?」

「仏教です。へへ」

「じゃあ、敵ですね」


 オサムくんの前にラーメンが置かれた。


「ずず……っ。んま」


 落ち込んだ様子でラーメンを食べ始めるオサムくん。

 マリアさんがボクを見てきたので、名前ぐらいはと思い、自己紹介する。


「も、諸星セイチです」

「なるほど。セイチくんですね。宗派は?」

「神道です」

「改宗なさい。神は全てを許します」

「いや、え、ちょ、おかしくない?」


 それ言ったら、戦争になっちゃうよ。

 何で戦争がなくならないのか、今分かった気がする。


「ていうか、マリアさん」

「はい?」

「……その、大丈夫ですかね? 呑気にラーメン食べてて」


 金づちでぶん殴ったぞ、この人。

 過剰防衛で捕まらないか、少し心配になったのだが、マリアさんはにこりと笑って言った。


「公僕の世話にはなりませんからっ」

「口悪いなぁ……」


 こんな感じで、ボクとマリアさんは出会った。

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