家族
「着いたよ」
そう言って彼が指を指したのはマンホールだった。
「えっ、どういうことです?」
「だから隠れ家に着いたの。この中に入るんだよ」
当然のように彼は言っているが、つい最近まで一般人だった俺にはかなりの抵抗があった。
俺が想定していたのはもっとこう、山奥でのひっそりとした暮らしだった。
生活排水が流れているところにこれから住むなど全くの想定外だったのだ。
「やっぱり、考えさせてもらっても……」
俺が恐る恐るそう聞くと、すんなりとOKがでた。
そして、彼はこうも付け加えた。
「考えるのは良いけど、明日も生きられるなんて考 えはもうやめな。俺たち自身が認めなくとも、世間から見ればゴキブリ以下の存在なんだ。どっちにしろ以前のように慎ましく生きることなんて出来ないぞ」
彼がそう言い終わるとマンホールの蓋は閉じた。
一人取り残された俺は地面に座り込み、頭のなかでは先ほどの言葉が何度も反芻していた。
俺は今日、家族を失った。帰れる場所はもう無い。
生きていくためには腹をくくるしかないんだ。
「ようこそ、これからは私たちは家族だ」
今日、マンホールのなかで俺は新しい家族ができた。
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