居ぬ人

美木間

居ぬ人


昼寝でもうたた寝でもなく舟を漕ぐよぎる顔それ祖母ははのはは笑む



鳥の声寝そびれたまま飛び乗れば降り立つ先に傘が咲く古都まち



湿しめりにこもりし熱を逃がしたく開いた扇子に親と子うさぎ



居ぬ人の縁戚ゆかりを偲ぶ大伽藍目の端の白泰山木たいさんぼく



肩の辺に香るくちなし運ぶ風後れ毛引かれ飛地とびちの晴れ間



花も香もいらぬと伝え聞いており水を注いでこうべをたれる



居ぬ人の報せ済まして息をつく手桶戻して来たバスに乗る



居ぬ人の母の手握る骨太のこれが祖母の手握り返され



ひととせを待てど暮らせどくつがえらず亡きとは言えず居ぬと口にす



クリームとあんとフルーツ豆寒天黒蜜とろけ居ぬ母思う



差し向かい一献傾け湯葉の張り月汲み上げてうつ舌つづみ



手のひらにおさまる季節水無月を宿の夜会に抹茶でいただく



久しぶり物見となりて天蓋路にぎわい揉まれ上がる気よろし



すれ違う言葉多彩の道すがら選ぶ古都まち土産づと尽きぬ人波



新しき肩掛けかばんぶどう色図書館通いこれが定番



やわらいだ老舗の声に暖簾のれん揺れ琥珀の貝に瞳瞬く



盛大に新聞広げ丸テーブルお久しぶりと甘い珈琲



にぎわいに浸りつまんで味見するにしきなつかし百花繚乱



ひとふりし蕎麦つゆに散る七種ななくさの思い出のぞくにしん飴色



疲れても憑かれて寝れぬ古都こともどり奈良柴沢庵ならしばたくあん夜半の小腹





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居ぬ人 美木間 @mikoma

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