第33.5話 疑い
「失礼する」
扉に渋い声と共に一つのノックがかかる。それに私はなんの反応を示さず、ただ、ゆっくりと開く扉をジッと見ていた。
「何用だ?」
先代の教皇とは面識のあるもののこいつには面識がないから、バレることはないと思いながらも万が一のことを考えて私は声のトーンを落として尋ねた。
「我は教皇ぞ。その不躾な態度は何だ」
「そうかもしれんが、ここでは貴様は客、私は主人だ。どちらが上かなんて考えなくても分かるだろう」
先代と変わらぬプライドの高さには呆れる。どうして私はこいつらのことを信用してしまったのかと深く後悔した。
「ここにこいつらが来たという情報を手に入れた。何か知らぬか?」
「知らんな。第一、ここは宿屋だが、こんな辺鄙なところに来るとは思えん」
「こんな場所にあるとさぞ隠しやすいんじゃないか?」
「面識がないやつにそんな恩を着せるようなことはしないだろう?」
教皇が渡してきた紙にはクレアと快斗の写真が貼られていた。疑っていたわけではないが、これが天音の言っていたことが本当であるということの証明となった。
「私に話せるのはそれだけだ。客じゃないのならさっさと帰れ」
「ここの部屋を全て調べさせてもらうぞ」
「勝手にしろ」
一時間ほど全ての部屋をくまなく捜索した教皇とその取り巻きは、何もないことを知るとようやく諦める気になったのか、帰り支度を始めた。
「どうやら、違うようだったな。協力感謝する」
「疑いが晴れて良かった。それより、その杖、新しいのに変えなくていいのか?だいぶ使い古されているみたいだが」
「これは長い間受け継がれた神聖な杖だ」
「そうか。……おっと」
「杖に触るな!」
「すまない。持病の目眩でふらついてしまった」
わざとらしい演技で教皇の杖に触れる。その瞬間にある仕掛けをかけたが、あの短時間でかけれる魔法というものは少ない。これが快斗との戦いの時に効力を発揮すればいいが、こればかりは願う他ない。
「では、失礼した」
そう言って教皇は杖を大事そうにしながら、この宿を後にした。
人の気配がなくなる。そのタイミングでようやく息を吐いた。
「はーあーぁー。疲れるな」
気を張るというのは疲れるからあまり得意ではない。それでも、少しの貢献は出来ただろう。あとは時間が過ぎるのを待つだけ。その間に何事もなければ御の字だが、人生というのは紆余曲折あるもの。何が起きるのかは分からないが、私たちはただ信じて待つとしよう。
「さて、あいつは私にどんな未来を見せてくれるのだろうか」
ここにやってきた一人の
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