第31話 信用するということ

「じゃあな。今日は夜も遅いから早く寝ておけ」

「親みたいなこと言わなくてもそうする」

「おやすみ、メラー。また明日」


 宿に着いてようやく俺たちは寝ることが許された。今日までずっと怒涛の一日というか、この世界に来てからはゆっくり休める時間というのが少ない。前向きに言えば充実していると言えるのだろうが、それでも精神的に疲れる。


 メラーに買ってきてもらった夜食を口にして風呂に入り、ベッドに潜る。体を横にすると今まで溜まっていた疲れがどっと溢れるような感覚を覚えて、目を瞑った。


「ねぇ、カイト」

「……」

「もう寝ちゃった?」

「起きてる」

「なんで一回無視したの」

「眠いんだよ。話があるなら手短に頼む」

「うん、分かった」


 静寂を破ったのはクレアだった。それでも俺は眠気に勝てず、一回は無視したが、仕方がなく、返事することにした。


「グオンがなんであたしに刃を向けたのか考えてたんだけど、やっぱりそれって教会の仕業なわけでしょ?」

「そうだな」

「教会はカイトを狙ってるわけでそこは明確な敵対関係がある」

「そうだな」

「だから、信じるのは教会じゃなくてカイトたちの方なのかもって」

「どうだかな。俺が教会に狙われるほどの大犯罪を犯してる可能性だってあるわけで単にそんなことは言えないだろ」

「そんなことないよ。だって、あたし信じてるから」

「だいぶ暴論だな。俺にとってはありがたいが、さっきのこと忘れたのか?俺は平気で嘘つくぞ」

「大丈夫、大丈夫。カイトに犯罪を犯せるほどの勇気はないよ」

「酷い言われようだな」

「ふふっ、さっきのお返し」


 俺にとってどういう理由であれクレアが信用してくれるというのはありがたいことに違いはない。


「だから、あたしはカイトのために何かしてあげたいって思うよ」

「犯罪しろって言っても?」

「カイトと一緒にやるならそれでもいい」

「だいぶヤバいこと言ってる自覚あるか?」

「うん、あるよ。でも、今信じられるのはカイトたちしかいないから」

「そうか」

「うん、だからこれからよろしくね。快斗」


 より一層、クレアとの距離が縮んだような気がする。クレアの決意を聞いてそう思いながら、俺はもう一度寝る体勢に入った。横でガサゴソと音が立つが疲れ切った俺はそれを確認することなく、寝返りを打って寝た。

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