第28話 洞窟の災難③
「ここで行き止まりが四つめ。大体洞窟の広さは分かったけど、本当に何にもないね」
「歩けば、何か見つかると思っていたが、そんなことなかったな」
少しの手掛かりも見つけられぬまま四つめの行き止まりにぶつかり、踵を返す俺たち。この洞窟に迷い込んでから少なくとも一時間は経過していることだろうが、進展は特になかった。
「なんの手掛かりもないっておかしくないか?俺たち違う洞窟に来てるんじゃ」
「うん、そうかも。足跡もなければ、通った形跡すら残ってないってことはそうっぽいね」
「どうする?」
「このまま、探しても埒が明かなそうだし、ひとまず、自分たちが落ちたところに戻ろっか。もしかしたら、そこから帰れるのかもしれないし」
「俺そこに行く道忘れたんだけど」
「大丈夫。あたしに任せてちゃんと脳内マップに記録されてるから。あたしについてきて」
こういう時、そう言ってくれるのはありがたいし、何度も冒険したことがあるようなクレアなら信用できる。これがメラーなら、俺は彼女が行こうとする方向の反対を行くことにしていただろう。
「本当についた……!」
「何?私のこと信用してなかったの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、クレアって記憶力いいんだな」
「全然そんなことないよ。今はただ単純に覚えてたってだけで時間が経てば忘れるよ」
「短時間で忘れた俺は鳥頭ってことか」
「そういうことかも」
「おい」
「ははは、冗談冗談。ところで、来たはいいけどやっぱり無理そうだね。ここから行くのは」
「あぁ、思ったよりも高いところから落ちてたみたいだな」
「そうだね。よく無事でいられたよ」
「これも奇跡なんだろうな」
よく見てなかったから分からなかったが、随分と高いところから落ちていたようだ。魔法がなかったら即死だっただろうな。
「というか、なんだこの糸」
「本当だ。こんなのなかったよね?あの蜘蛛の仕業だとしたら嫌なんだけど」
よく見ればこの糸は俺が落ちた穴から続いているみたいだった。俺は恐る恐る引っ張ってみるが、特になんの変化もなかった。
「なんだろうな、これ」
「あ、いた!」
糸を引っ張って少し経っても何も起こらなかったから、ただの糸かと思えば、上の方から明るい声が聞こえた。
「朱音!助けてくれ!」
「ちょっと待ってて!」
俺は助けを呼ぶと朱音はこっちに降りてきた。
「おい、なんで降りてくるんだよ」
「いたた。え?来てって言わなかった?」
「言ってない言ってない。で、どうするんだよ」
「大丈夫、大丈夫。なんとかするから。それよりも、良かったようやく見つかって」
「本当そうだよ。で、この糸ってなんだ?」
「これはこうやって引っ張ると上の方で音が鳴る仕組みになってるんだ。それでここに来た二人が糸を引っ張れば来たってことが分かるようになってるんだ」
「要は釣りみたいな感じか」
「そうそう、だから二人は釣られたってわけ」
「お前も同じ土俵に来たんだから、俺ら三人魚だな」
よくこんな魔法が発達した世界で原始的なものを使ったなと心の中で感心する。それよりも唯一上にいた朱音が降りてきたことに問題があるだろう。どうやって戻るんだ。
「じゃあ、上に戻ろっか」
「どうやってやるんだよ」
「ちょっと失礼するよ」
何かと思えば朱音は俺の体をお姫様抱っこのような形で楽々持ち上げて、魔法で飛び始めた。
「重くないのか?」
「重いよ。流石に」
「そんな感じしないけど」
「うわー、なんて重さだー。腕が折れちゃうー」
「棒読みやめろ」
普通の状態でもキツイだろうにそれに加えて飛ぶとか、重い重くないとかいう次元の話ではないと思ったが、どうやら朱音は冗談を言えるほどの余裕はあるようだった。
「よいしょっと。快斗はそこで待ってて」
俺を降ろした朱音はノータイムでまた降りてクレアを俺と同じように運んできた。
「ありがとうね」
「ううん、気にしないで」
「ところで、俺たちってどんくらい洞窟を彷徨ってたんだ?」
「大体二時間くらい?僕たちが途中でアフタヌーンティーを楽しめるぐらいには時間かかってたけど」
「洞窟の真ん中で何してんだ」
「嘘だよ、嘘。じゃあ、二人が待ってる場所に行こうか。待たせると悪いし」
そう言われてクレアについていくと、天音とメラーがソワソワしながら待っていた。
「これが今日の釣果だよ」
「快斗さんとクレアさん。本当にすいませんでした。私たちがちゃんとお守りできてればこんなことにならずに済んだのに」
「気にするなって。あんなの予測するなんて無理なんだから」
「いえ、これは私の油断が原因です。もう一度謝罪させてください」
そう言って深々とお辞儀する天音。あんな自然の厄災のようなものから守ることは油断していない状態だとしても難しいだろう。だから、そんな謝る必要はないのだが、天音というのはとことん正義感に強いやつだ。
「あとクレアさん」
「うん、どうしたの?」
「今回であなたが信用するに足る人物だということが分かりました。ですから、二人でいることや近くにいてもいいことを許可したいと思います」
「え?本当!?」
「はい。快斗さんの隣にいても特に何もしなかったので信頼できるかなと」
「良かったぁ。これでようやくあたしも仲間入りしたってわけだね」
「そういうことですね。これからよろしくお願いします。クレアさん」
「うん、よろしく!」
仲間として認められたことが嬉しいクレアは今日一番の笑顔を見せた。確かにクレアたちにとって、俺が落ちた後、クレアと二人っきりになったというのに何もされなかったのは信用できる行動と言えよう。俺もこれで安心してクレアと共に行動することができる。
「それとクレアさん、少し手を出してくれますか?」
「うん、いいよ」
天音の言うことを素直に従ったクレアは手を広げて差し出す。天音はその手に手を重ねてゆっくりと恋人繋ぎのように握った。
「な、何してるの?」
「後もうちょっとです」
その仕草に恥ずかしくなったのかクレアはそう聞いたが、天音は至って真剣であった。
しばらくして、手の付近が青く光り始めた。その神秘的な光が発せられるとその綺麗さに息を飲んでしまう。
「はい、これで大丈夫です」
「何したの?」
「私たちの仲間であるという証を授けました」
「へぇ、なんかすごいね」
「これで立派な私たちの仲間になりました」
「やったー!」
天音は今やった行動に仲間の証を授けるためと言ったが、きっと他に何かしたんだろう。それがなんなのか分からないが確実に仲間の証を授けただけではないと言うことは分かる。
「それじゃあ、戻りましょうか。納品の時間もありますし」
「他の任務は?」
「私がやってきた」
この任務の他に何個かまだ任務があったはずだが、それは全てメラーがやってくれたようだった。他のことになると頼りないが、こういうことになると頼りになるんだな。
「あ、そういえば洞窟で色々お宝見つけてきたんだ。買取に出せるかな?」
「それはいいですね。冒険書協会に行くついでに行ってきましょうか」
「うん、そうして欲しいかも」
「では、私と朱音で行ってきますので、三人は宿の方に行っておいてください」
「分かった」
街に戻ってきたところで天音と朱音が冒険者協会に行くと言って俺たちは一回別れた。
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