第26話 洞窟の災難①

 目が覚める。ここはどこなのかを辺りを見渡したところでどこなのか見当もつかない。体を起こして怪我していないか見るが、最後の足掻きが功を奏したのか外傷は見当たらなかった。しかし、体を強く撃ったせいか、背中の方が痛い。


『再生』


 試しに背中にやってみると痛みがスーッと引いていくような感じがした。


「よし、大丈夫だな。歩ける」


 一通り体を動かしてみて痛みを感じなかったから、俺はとりあえずこの場から離れることにした。


 あの感じを見るに洞窟の一部が崩れて落ちたのだろう。それとあの場にいた他の四人も落ちてしまったのだろうか。近くにいてくれればいいもののなんの手がかりもなきゃ、ただ願うことしか出来ないな。


 少し歩くと、上から岩が降ってきたような場所があった。


「誰かいないか?」

「か、カイト!?あっ、ちょっと助けてくれる?」


 その岩に向かって声をかけると助けを求める声が返ってきた。俺はひとまず、その声を頼りに近くに駆け寄った。


「クレア、大丈夫か?今助けてやるから」

「あ、ありがとう」


 岩に押しつぶされていたのはクレアだった。俺はなんとか岩を少し退かしてクレアを岩の下から救出した。


「ありがとう。イタッ」

「大丈夫か?ちょっと待ってろ」


『再生』


「どうだ?よくなってればいいんだが」

「……うん、大丈夫!動かしても痛くないや」

「それなら良かった。ところで、あの後どうなったんだ?」

「カイトが落ちた後?その後も揺れが続いて床が崩れて、気がつけばここにいたって感じ。他の三人もきっと落ちちゃっただろうから探さないと」

「そうか、分かった。じゃあ、一緒に探すか」

「うん、そうだね」


 助け出したクレアと共に洞窟の中を歩く。隣でずっとソワソワしているクレアは何か聞きたい様子だった。


 洞窟の突き当たりに差し掛かり、こっち側に道がないことを確認して少し休憩しようと腰を下ろすとクレアが口を開いた


「あのさ、色々聞いていい?」

「あぁ」

「なんで急にいなくなっちゃったの?」

「手紙置かなかったか?そこに書いてると思うんだが」

「それはそうだけど、何も言わないで行っちゃったから」

「それはすまない。急にやらなきゃいけないことができて急がなきゃいけなかったから」

「そうなんだ。良かった。嫌われたのかと思っちゃった」

「そんなことない。俺はクレアたちに感謝してるし、お前らがいなかったら俺はきっとここにはいなかったのかもしれないし」

「そう言ってくれてありがとう。きっとグオンたちも喜ぶよ」


 少しの間沈黙が続いた。俺とクレアが思っていることは一緒だろう。


「グオンたち、どうしちゃったんだろうな」

「うん。なんで一緒に冒険した仲間をあんな簡単に殺しに行こうって思えるのかな。……ごめんね、私がちゃんと止めれば良かったんだけど」

「いや、そんなことはない。クレアだって最善を尽くしたんだ。お前は悪くない」


 悪いのは全部教会の人たちだ。クレアが謝るものではないだろう。


「あと、もう一つ聞いていい?」

「あぁ、いいぞ」

「うん。あの三人とはどういった関係なの?」

「どういった関係って言われてもな」

「あの三人のことは信用しきってるでしょ?でも、あたしはまだ信用してもらえてない。それって、あの人たちの方がより深い関係にあるからじゃないの?」

「……」


 なんと言えばいいのだろうか。もちろん、本当のことを言えるはずないから何か嘘をつかなくてはいけないのだが、それで墓穴を掘った時にまた困る。


「あいつらは命の恩人なんだよ。前にも話しただろ。森の中で倒れてるところを救われたって。だから、自然と懐いたみたいな感じで信用してるんだろうな」

「あたしはまだ信用には足りない?」

「後、もうちょっとってところだな。後それは時間が解決してくれると思う」

「じゃあ、待たないとね。その時まで」

「きっと、すぐだろうから」


 クレアが信用できるかと言われれば、もうすでに出来るのだろう。それでも、万が一というのはいつでも起きうる。だから、俺はその時まで待っているのだろう。クレアを完全に信用できる日かクレアが俺に牙を向ける日を。


「じゃあ、休憩も終わったことだし、探しにいこうか」

「もう聞きたいことはないのか?」

「うん、大丈夫だよ。知りたいことは知れたし」


 実際のところクレアはもっと色々話したいのだろう。顔を見れば分かる。それでも、聞かないのは何かしらの理由があるみたいだ。

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