第25話 冒険
「それで、なんか分かったか?」
「正直に言っていいですか?」
「あぁ、構わない」
「あの人、完全に信用してもいいほどなんですよ!」
「じゃあ、なんでさっき嘘ついたんだよ」
「万が一のことがあったらまだ駄目なのかと思ってしまって」
「どうする?今にでも、さっきのはドッキリ!君は合格だよ!って言いに行くか?」
「いえ、あれが正解でした。クレアさんは過去一例にもない異例であり経過観察という形が一番の策でしょう」
「いつも思うんだけど、なんでそんなに警戒するんだ?完全に信用できると言ってるのになんでそこまで距離を置かせるんだ?」
「快斗さんの言いたいことも分かります。でも、私たちはそうしなくてはいけないのです。過去に私たちは大きな裏切りに遭いました。それ以来、あまり信用しないようにしているのです。信用して裏切られた時が一番の苦しみであると知ったから」
そう言う天音に取り巻きの二人も頷く。過去に何かあったのには違いないだろうが、俺は詳しく聞けなかった。
「まぁ、そういうことですから私たちが過保護になっていても気にしないでください。それよりも今後の日程なのですが、一週間後に教会付近で祭りのようなものが開かれるようです。結構大規模なので警備員も多数配属されますし、民衆の視線も自然とそちらに向くことでしょう」
「その時にやれと」
「はい。その時間帯、教皇は自室にいるみたいですね。ですから、絶好のチャンスと言えるでしょう」
「そんな上手い話があるっていうのか?」
「まぁ、確かに怪しいような気がしますが他にこれといったチャンスはないのですよ。それと私たちもなんとかして快斗さんの手伝いをするので頑張りましょう」
「うーん、まんまと罠に嵌められるような気がする」
たまたまその時間帯だけ、チャンスというのはかえって予測されやすいだろう。万全の状態で待ち構えられているかもしれない。
「そうだとしても、私が教える技がある」
「そういえば、そんなのあったな。どういうのなんだ?」
「まぁ、今日にでも教えてやるから楽しみにしてろ」
「めちゃくちゃ期待しておく」
「なんか、そう言われるとプレッシャーを感じるな」
「まぁ、そういう意味を込めて言ったからな」
「悪趣味なやつだな」
そこまで引っ張るのなら期待以上のものを見せてくれるだろう。俺はメラーにいらないプレッシャーをかけておいた。
「それで今日はひとまずのところ様子見ということでクレアさんを誘って冒険に行きましょう」
「いいのか?俺が堂々と外を出て」
「まぁ、今のところは平気でしょうね。もしかしたら明日とかは駄目かもしれませんが」
「結局はサイアントからの連絡が届くまでの時間による。足止めはしているが、二日三日遅れるだけだろうし、クレアを追っていた者がここに来れば、それでも情報は渡るだろうな」
「あの粘糸がどれだけの耐久力があるか分からないからなんとも言えないな。もしかしたら、もう来てるのかもしれないし」
「あの徹底ぶりからすれば、一日は持ってくれそうだがな」
「どうだかな。初めて使ったわけだし」
「まぁ、深く気にするようなもんじゃないよ。ここは気楽に行こ」
連絡網に関しては天音と朱音がどうにかしているみたいだからきっと大丈夫なのだろうが、問題はグオンたちの方だ。よく分からない粘糸で動きを止めたもののどれほどの効力を発揮するものか分からない現状、もしかしたらすぐ近くに来ているのかもしれないし、そんなことはなく、まだ動きを止められているのかもしれない。
「では、クレアさんのこと呼んできますね」
冒険の準備をして早速クレアを呼んで冒険に出ることにした。
「あたし、他の街で冒険するなんていう経験あんまりないんだけど、大丈夫なのかな」
「規定上は問題ないはずですが」
「いや、違くて街によって生態系って結構変わるでしょ?それに対応できるのかなって」
「確かにこっちとあっちとではだいぶ変わりますが、大丈夫じゃないですか?こっちは凶暴な魔物は多くないですし」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、安心かも」
「はい、安心してください。もしもの時は私が守りますので」
「お、心強いね。でも、あたしもそんじょそこらの冒険者よりかは強いはずだから任せて」
「はい、頑張りましょう」
冒険者協会から天音と朱音、クレアが任務を受けて今俺たちはその任務をするために森の中を歩いていた。まだ、道が開けているからいいもの奥に行けば行くほど道は狭くなっている。
俺と一番距離が離れているクレアは生態系がどうたらと言っていたが、ここは教会も近く、脅威となるような魔物は出にくいということだった。
「それでなんの任務を受けてきたんだ?何も聞かされないままただついてきただけなんだが」
「一つ目は鉱石の採掘です。洞窟に行くとあるみたいですね。二つ目はそこの洞窟に最近湧いたとされる魔物の駆除ですね。比較的簡単ですし、それに洞窟というのは見たことない魔物も見れるでしょうから。あ、着いたみたいです」
森の中を彷徨うように歩いて足を止めた場所は急に開けた森の広場のような場所で、そこには不自然な横穴があった。
「すごい変な場所にあるんだな」
「洞窟って場所選べませんからね。仕方がないことです。では、行きましょうか」
洞窟は何度か来られているのか、入り口は広く、地面は硬いし、灯りがつけられていた。
「採掘場所はここから近いですし、整備が施されていて魔物は出てきません。ただ、今日の目的はみたことない魔物を見にいこうということなので、採掘が終わり次第洞窟の奥に行ってみましょう」
「別に危険を冒すなんてことはしなくていいんじゃないか?」
「危険を冒すわけではありませんよ。ここの魔物は弱いですし、一撃で殺してくる魔物はいませんから。それに何か身に危険が迫ったとしても私がしっかりとお守りします」
洞窟というものは危険だ。だから、厳重に整備されているわけだし、そこから道を外すというのは自ら危険に飛び込むということだ。それでも、天音は胸を張ってそう言う。天音の言うことは説得感があることは間違いない。素直に彼女の後をついていくべきだろう。
「この鉱石はどういうのに使われるんだ?」
「この鉱石ですか?これは高温で熱してから叩くと硬くなるという特質があります。それに加工もしやすいので包丁などに使われますね」
「なるほどな。ひとまず、やってみるか」
天音の分かりやすい説明を聞いた俺はとりあえずトレードを使ってみることにした。淡い光が出た後にカードを確認すると『硬化』という魔法が追加されているのを確認した。
「硬化か。便利そうな魔法の名前をしてるな」
案の定、天音が言っていたようなことが魔法となって現れた。硬化。名前を見るだけで便利そうだということが分かる。
「掘る時にはこれを使ってください。簡易的なツルハシです」
「魔法とかでやるんじゃなくて道具を使うんだな」
「はい、魔法でやると大部分が傷ついてしまいますから、こういった作業の時は道具を使った方がいいんです」
朱音やメラー、クレアが黙々と作業する中、俺は天音に作業の手順を教えてもらっていた。魔法が根付いた世界でもこういう作業には道具がつきものらしい。鉱石の表面を傷つきないようにツルハシで根本を叩き、一つずつ丁寧に採掘していく。
「すごいですね。初めてにしては上手です。あとは、採掘した鉱石をそこに置いておいてください。私が魔法で傷がつかないようにしておきます」
「あぁ、分かった」
褒めてくれた天音は俺が渡した鉱石を見て満足げに頷いて他の三人が集めた鉱石にも魔法をかけようと俺から離れた。
「目標数集まりましたね」
「やっぱり人数多いと楽だね。あたし三個しか取ってないのにもう終わっちゃった」
「これがパーティーでやる利点だよな」
結局鉱石を集めるのに、三十分も掛からなかった。仕事の量が分散されるのはありがたいことであり、パーティーで冒険に出る明確なメリットだろう。
「では、鉱石はここに置いて少し奥に進んでみましょうか。ここの洞窟の構造上、何個か別れ道があるみたいですが、道が広い上に別れ道があったとしても他の道と繋がっていることが多いので、あまり心配する必要はないでしょう」
「快斗は私の後ろにいろ」
「背中は僕が守ってあげるよ」
手厚い保護だ。メラーと朱音に挟まれ、先導する天音とクレアについていく。洞窟は確かに天音の言う通り広く、道も安定していた。
「なんだあれ?」
「あれはドウクツイソギンチャクという触手型の魔物だな。あの触手は切ってもすぐに回復する。それにその切った部分は美味しく食べれるらしいから、好んで食べる家庭は一匹飼ってるらしいな」
「こんなやつを飼うなんて怖いな」
「確かにビジュアルは怖いけど、あの魔物は人間を察知して攻撃してこないからね。それに主食は害虫だし」
「あの見た目で無害なんだな」
「うん、そうだよね」
岩肌にひっついてウニョウニョと触手を動かすビジュアルは凶悪そのものだが、見た目で判断するべきじゃないらしい。俺はそれにトレードすると『再生』を獲得した。
「また便利な魔法を手に入れたな」
こんな魔法がすぐ近くに転がっていると考えると、この魔法というのはチートだと思ってしまう。
「なかなか、魔物が出てきませんね」
「しょうがないかもね。今まであたしたちが通ってきた道って灯りついてたし」
「出てくる魔物も出てこないっていうことですか。いっそのこと灯りを全部消してやりましょうか」
「駄目駄目。そんなことしちゃ!」
もう一度別れ道を左へと回る。しかし、徹底的に灯りがつけられているせいか魔物とは出会わなかった。
「これじゃあ、洞窟探索じゃなくて観光地を散歩してるみたいです」
「あはは、確かにそうかも」
天音が愚痴を漏らし、それに笑うクレア。と、その次の瞬間、洞窟が大きく揺れ始めた。
「快斗ッ!」
それにいち早く反応した朱音は俺に手を差し伸べるが、俺の足場が他の足場よりも早く崩れ、体勢を崩した俺はその手を掴むことができなかった。俺は高いところから落下する感覚を始めて味わった。どんどんと落ちる中、死を悟り、俺は最後もの抵抗として魔法を使う。
『硬化』
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