第24話『デデーンデデデデーン、パフッ!』
「暑苦しい……!」
寝起きは最悪だった。謎の暑苦しさに目を覚まして、その原因が分かると呆れながら俺は距離を置いた。
「昨日はあんなにカッコつけてたのにこれか」
俺が本来寝ているはずだったベッドを占領しているメラー。穏やかな寝息を立てて気持ちよさそうに寝ているのはいいことだが、昨日の言葉は一体どうしてしまったのか。無理しないことが一番だが、その間に俺が殺されてでもしたらどうする。
「お前が起きないと俺部屋から出られないんだよな」
危険因子が近くにいる以上、俺は迂闊に部屋から出ることはできない。だから、こいつが起きるのを待つしかないのだが、こんなに心地よく寝ていると起こしにくい。
ベッドに腰掛けて時間を潰していると扉にノックがかかった。その音を聞いて俺は戦闘態勢に入る。
「私です。快斗さん」
戦闘態勢に入っていた俺だったがその声を聞いてそれを解いた。どうやら、天音たちが来てくれたようだった。
「久しぶりだね。元気にしてた?」
「一日ぶりだからそうでもないだろ」
「それはそうかもしれないけど、僕的には久しぶりなんだよ」
「そうか」
「朱音。快斗さんを困らせないでください。ところでメラーさんは何をしているんですか?」
「寝てるな」
「いつからですか?」
「分からない。ただ、見張してやるって言ってここに来て起きたらベッドにいたな」
「警戒心というものが薄いのでしょうか。メラーさん、起きてください」
「……うっ。うぐっ、死ぬっ!」
優しい声色とは裏腹に鼻を摘んでメラーを起こす天音。飛び起きたメラーは天音を恨めしそうに見ている。
「おはようございます、メラーさん」
「あんなことしたのに平然としていられるってサイコパスだな」
「あなたが役目を果たさないのが悪いのです」
「私の役目は寝ることだ!」
「永遠に眠らせてあげましょうか?」
「……快斗ガード!これで天音は私を攻撃できまい!はっはは、どうだ、見たか。私の賢あいたっ!」
「馬鹿なことやってないで少しは反省してください」
「はい……」
変なことを言ってしまいには俺の後ろに隠れたメラーは天音のデコピンをもろにくらい、悶絶した後小さく頷いた。無駄な抵抗はこいつの前では無力なことがこれで分かったな。
「それで事情が少ししか分からないのですが、私たちに簡潔に教えてくれませんか?」
ここに呼ばれた天音たちは少し知っているものの詳しい事情は知らないみたいだった。俺は二人に簡潔にまとめて話してやった。
「なるほど。それは確かに不思議ですね。そういったことは過去にもありませんし、私も分かるかどうか」
「とりあえず、その人と話してみないと分からないかもね」
「そうですね。何か話しているうちに分かるかもしれません。それでその人は今どこにいるんですか?」
「私が案内したのはこの部屋から一番遠い場所だ。起きてないのを見るにまだ部屋でぐっすり寝てるんじゃないか?」
「では、そちらに行きましょう。快斗さんはメラーさんの近くにいてください」
「分かった」
まるでクレアを危険人物かのように扱い、過保護に守られる俺。いかに俺が重要人物であり、三人から期待される存在なのかが分かる。俺に三人が思い描いているようなことができるのかというプレッシャーにかられるが、今は目先のことだけを考えよう。
「クレアさん。開けていいですか?」
「どうぞー」
扉越しから気さくな声が聞こえる。それを聞いてクレアは迷いなく扉を開いた。
「おはようございます。クレアさん」
「おはよう。えっと、天音さんと朱音さんだっけか。久しぶりだね」
「はい、久しぶりですね」
「それとメラーさんとカイトまで来てどうしたの?」
「ただ、少しお話がしたいだけです。メラーさんと快斗さんは話に嘘がないかどうかを調べるために連れてきました」
「嘘なんてつかないけど、まあいいよ。これも信頼されるためのやつだもんね。じゃあ、あたしからもちょっといい?」
「なんですか?」
「あたしがちゃんと正直ものであるか分かる方法があるんだ」
「それはなんですか?」
クレアはカバンの中からある物を取り出した。
「じゃーん、嘘発見器!これはね、昨日の夜カバンの奥ぞこから見つけたんだけど、すごい便利な魔道具なんだ。対象が嘘ついていると音が鳴って知らせてくれるの」
「本物か、どうか分からないので、ちょっと」
「じゃあ、試してみよっか。私が質問するから嘘をついてみて。じゃあ、行くよ?あなたは野菜が嫌いですか?」
「……いいえ」
『デデーンデデデデーン、パフッ!』
「なんですか、その間抜けた音は」
「嘘ついた時の音だよ。本当のことを言った時は何もならないんだけどね」
この部屋に間抜けな音が反響する。一瞬の静寂の後、天音は呆れながらクレアの方を見た。
「これで本物だっていうことが分かったでしょ。とりあえず、使ってみてよ」
「分かりましたが、壊れていないか確かめるために定期的に本質から逸れた質問をするので必ず嘘をついてください」
「うん、分かったよ」
「じゃあ、行きますね」
クレアの対面に座る天音と座った天音を見て姿勢を正したクレア。今から大事な面接でも始まるのだろうか。
「とは言っても、私もよく分かってないのであまり多くの質問はしません。まず、一つ目に、仲間たちの反応はどうでしたか?命令が下された後の対応というのはいつも通りでしたか」
「全然違ったと思う。何がなんでもカイトを見つけようとしてた。でも、夜の森は危険だとかっていう判断は出来てた」
「あなたは何か特別なことをしてますか?普通の人とは違った変わったことをしてませんか?」
「うーん、してないかな」
「なるほど。では、野菜は好きですか?」
「……?あ、えーっと、嫌いかな」
『デデーンデデデデーン、パフッ!』
「どこか体が悪いところとかありますか?例えば耳とか」
「特にないかな」
「うーん。では、命令を聞いた時どう思いましたか?」
「なんで探し出して殺さなきゃいけないんだろうって思ったけど、それでカイトと会う口実が出来るでしょ?だから、探すのには賛成したよ。殺すのは反対だけど」
「司祭については今どうお考えで?」
「なんでカイトを狙うのかが分からないし、少し嫌いになっちゃったかな」
「なるほど。では、昨日はぐっすり寝られましたか?」
「ううん、あんまりぐっすり眠れなかったかも」
『デデーンデデデデーン、パフッ!』
「はい、質問は以上です。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
対面していた二人は深々と礼をして質問がようやく終わった。そして、俺は隣で肩を震わせて声が漏れないように我慢している朱音の背中を叩いた。
「あはは。ごめん、面白すぎる!真面目な質問の最中にヘンテコな音楽が流れるのはズルいよ!」
「終始、ふさげてるのかと思った」
「決して私はふざけているわけではありません。これも全部快斗さんの安全を守るためにやったことなんです」
「無理があるよ、それは。アハハハ!」
「朱音。そんな笑わないでください。私だって確かに変な音を聞いて笑いそうになりましたけど。はい、この話はおしまいです。とりあえず、分かったことは確かにクレアさんは危険人物ではないということと異例であるということですね」
「お、ついに認められたってこと?」
「まぁ、今の現状を考えるとそういうことになります」
「やった!」
話を強制的に切り上げた天音はクレアを危険人物ではないと言い切った。それに素直に喜んだクレアは小さくガッツポーズをする。
「まぁ、それでも快斗さんと二人っきりにはまだ出来ませんし、過度に近づくのも禁止です」
「なんで」
「まだ完全に信用するのには早いからです。崩れた信用は短い時間では修復しません。だから、待っていてください」
「うん、分かった」
「では、少し私たちは席を外します。快斗さん、部屋に戻りましょう」
「あぁ、分かった」
一通りの話し合いを終えてもなお、まだ信用を勝ち取れなかったクレアはガックと肩を落とすが、それでも諦めておらず、瞳は輝いていた。
俺たちはクレアの部屋を後にしてもう一度俺の部屋に戻る。四人入ると狭いが、ここが一番落ち着く。
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