第23話 再会と裏切り

「夜の森って雰囲気あるよな」

「なんだ、怖いのか?怖いのなら私の腕にしがみついてもいいぞ」

「そこまでじゃない」

「そうか?だとしても妙に距離が近いような気がするな」

「き、気のせいだろ」


 夜の森というのは先が見えずに独特の雰囲気を持っているから苦手ではあるが、けして怖いというわけではない。


「なあ、もうだいぶ歩いただろ?ここらへんでやろうぜ」

「まだまだ掛かるぞ。そんなに怖いんだったら遠慮せずに言えばいいのに」

「いや怖くなんかない!」

『ガサッ!』

「うわー!」


 突然大きいな音が出ると俺は驚いて大声を上げながら彼女の後ろに隠れた。


「何が怖くないだ。そんな驚き方して」

「うるさい。それよりもさっきの音はなんだったんだ?」

「あっちの方からだったな。少し行ってみるか」

「お前が前な」

「分かってる」


 音が出たであろうところに行こうとする彼女の背中にくっつきながら向かう。


「おい、大丈夫か?」

「う、うん。ありがとう。あたしは大丈夫だよ」

「あれ、その声ってクレアか?」

「え、カイト!?偶然だね、こんなところで会うなんて」

「待て、お前はどうしてこんな時間帯にこんなところにいるんだ」


 クレアと感動の再会を果たしたが、彼女は俺をクレアと離して高圧的な態度を取る。彼女の目にはクレアが敵に見えるのだろう。確かに、別れたはずなのに追ってくるというあからさまな行動にはそう思わずにはいられない。


「実は教会の命令でカイトを探すことになったんだけど」

「裏切り者はどこだー!」


 クレアが話し始めると同時に草をかき分けているような音が聞こえて、遠くからそう聞こえてきた。


「まずい。もうここまできちゃった。カイト、早くここから逃げよう」

「待て。状況を説明しろ」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

 逃げようと言って俺の手を掴もうとするクレアの手を弾く彼女は警戒心がマックスだった。俺も少し不信感を募らさせる。少しガツガツ来すぎな気がする。俺の思い違いだったら恥ずかしいが、なんとしてでも俺に触れようという強い意志を感じた。クレアを最初から疑った時点で俺はクレアが何かを企んでいるようにしか見えなくなった。


「ようやく見つけたぞ。クレア」

「グオン……」

「それにカイトまでいるじゃないか」

「どうしたんだ、グオン?」

「快斗、下がれ」


 クレアだけでなく、グオンやレインまでがこの場に集まってきた。それにグオンの後ろには数多の冒険者もいる。メラーが俺を後ろに下げると同時にグオンが武器を手に取った。


「グオン。何する気だ?」

「見て分からないか?」

「大体予想はつくが、あんまり信じたくはないな」


 俺に確実な敵意を向けるグオン。かつての仲間だったからこそ信じたくはないが、この現状を顧みるに俺とグオンたちが敵であるというのは明白だった。


「行くぞ、お前ら!」

「「オーッ!」」


 グオンが指揮官となり、俺たちに襲いかかろうとする。嫌だったが、この結末からは逃れられないのか。


「快斗逃げるぞ」

「でも、逃げたところでどうにもならないだろ」

「少しぐらいの足止めはさせておく」

『粘糸!』


 グオンたちの足にネバネバとした糸を生成させる。それに足を取られている隙に、狙い定めて体にも粘糸をかけた。


「逃げるぞ」

「それでこいつはどうする?」

「どうしようか」

「あ、あたし話したいことがあるんだ。それを話してからでもいいんじゃないかな」

「と言っておりますが」

「私の勘がこいつは大丈夫だと言っている。それに何か有益な情報が聞けるかもしれん」

「うん。きっと有益な情報だよ!」


 胡散臭さはまだ抜けないが、ここはメラーの言う通りにしよう。粘糸で絡まって足掻いているグオンたちを見てから俺たちはこの場を去った。


「クレアといったか?今日は私の宿で泊まれ」

「いいの?ありがとう」

「それで早速聞くが、どうしてここに来たんだ?詳しく私たちに話してくれないか?」

「そうだね。どこから話そうか。うーん。まずは今日の朝の出来事から話そうかな」

「あぁ、続けてくれ」

「今朝、カイトがいなくなってどうしよっかーみたいな感じになってたときに、司祭がわざわざやってきて『カイトを探して殺せ。これは命令だ』みたいなことを言ってきたの」

「それでこっちに来たのか」

「そうそう。で、それから……」


 その後のことをクレアは話し始めた。


「道ないね」

「仕方がない迂回しよう」


 カイトを追い、山に来てからところどころ道がなくなっていた。これで十回目の迂回だ。道中に変な縦穴も見つけたし、何か嫌な予感がする。


「でも、こんなに人必要だった?あたしたちだけでもよかったんじゃない?」

「教会命令だからな。失敗は出来ない。これでも本当は足りないくらいだ」


 あたしたちの他に集まった兵士は十数人。狙いはただ一人だというのにこの人数はテロリストを小隊で追い詰めているような感じだ。でも、カイトは小隊でもなんでもないただの一般人だし、ここまでする必要はないと思う。


「ちょっと休憩しない?あたし疲れちゃった」

「まだダメだ。迂回していて本来より時間がかかっているんだ止まることは出来ない」

「休憩しないとあたしここから動かないよ」

「はぁ、仕方がない。ただ、数分だけだぞ」

「ありがとうね、グオン」


 あたしは駄々をこねて時間を稼いだ。このまま行けば、グオンたちは教会の命令に従い、カイトを探して見つけ次第、殺すだろう。そんなのは納得できないし、あたしは頑張って時間稼ぎするしかなかった。


 予定よりも遅くあたりはすっかり日が落ちて森の中にいるせいか周りが見えないほど暗くなっていたなっていた。


「今日はここで休むか」

「そうだね。ゆっくり休もうか」

「いや、早朝には出るぞ。もたもたしていたカイトが探せないところまで逃げてしまうかもしれない」

「そうかな?」

「そうじゃなかったとしても早いに越したことはない」


 レインの明かりになんとか暗い森の中を進んでいたが、流石に危険と感じたのか少し開けた場所でテントを張って明日に備えることにした。


 簡単な料理を作ってお腹を満たし、レインとグオンと同じテントに寝る。少し時間が経ち、二人の穏やかな寝息が聞こえてきた。


「ごめんね、二人とも」


 寝ている二人にそう言ってあたしは用意していたロープを手に取り、二人の手足を縛った。そして、外に出て他のテントに寝ていた冒険者たちにも同じことをした。


「ここでラストか」


 十数人規模であったから、それなりに時間がかかったが、ここのテントで最後だ。私はさっきまでしていたようにテントの中に入ろうとする。


「なんだ、これは!」


 しかし、その前に縛っていた誰かが起きたのか、離れていた場所からでも分かる大きな声で叫び出した。そして、目の前のテントがガバッと勢いよく開いた。さぞ、その人は驚いたことだろう。テントの外に出ればロープを持った人がいる。しかし、あたしも同じ気分だ。あたしはロープを置いて一目散に逃げた。


「クレアだ!あいつが逃げたぞ!」


 そう後ろから言われたもののあたしは気にせずに森の中を駆ける。そして、何十分か走っていると段差につまづき、勢いをつけたまま、草に突っ込むとカイトと再会した。


「ところどころ要約してるけどこんな感じ。朝に教会の人たちがカイトを殺せって言ってきてグオンとレインは躊躇いもなしに了承した。あたしはカイトがそのままだと殺されちゃうと思って必死に策は練ったんだけどね。失敗しちゃった」

「メラーはどう思う?」

「現状言えることは、教会の『命令』が下されたということだ。それは洗脳された者なら逆らえないほどに強力だ。だから、クレアがそれに反抗したというのはよく分からない」

「だよな」

「何かしらの異変が起きているのか、それかただ単純にそう行動しろと命令されたからなのか。私じゃ分からないことだらけだな。明日にでも天音や朱音を呼ぼう。あいつらだと何か分かるのかもしれない」

「あたしのこと信じて」

「まだ信じられないな。明日には分かることだろうが、今日はひとまずカイトとは距離をとってくれ。それが今一番信用を取れる行動だ」

「分かった。それで信用してくれるんだったらそうする」

「あぁ、そうしてくれ。もう夜も遅い。寝るとしよう」


 宿に着いた俺たちは各々部屋に入って別れた。俺もちょうどいい頃合いに眠気がやってきてすぐにベッドに入ろうとする。すると、部屋の扉をノックされた。

「入るぞ」

「どうしたんだよ」

「クレアが隙を見てこっちに来る可能性があるからな。快斗のそばに居て見守ってやろうと思って」

「結構疑ってるんだな」

「私の立場上、疑わなくてはいけないからな。それを怠って快斗を失うなんてことがあったら、死刑ものだ。だから、私は徹底しなくてはならない」

「その方が確かにいいだろうな。相手の真意なんか分からないんだから。でも、クレアは嘘ついているようには見えなかったな」

「そうだな。あの時、まだ信用に足らんと言ったが、私も彼女が敵ではないと思う。それでも、これは一つの予想だし、予想というものは必ず当たるというものじゃない。……少し話すぎたな。寝てもいいぞ。私が見張っておく」

「寝なくていいのか?」

「私はタフだからな。気にすることはない」

「それじゃあ、遠慮なく。おやすみ」

「あぁ、おやすみ」


 俺はベッドに入ると一つの視線を感じて安心しながら、眠りに入った。


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