第22話 洗脳装置
止まることのない教皇の演説に飽き飽きした俺ら二人はその場から離れて異様に空いた街中を歩いた。
「教皇がどれだけ信用されているのかが分かるな。こうして大通りで手を広げながら走れるなんて滅多にできない経験だろうな」
「あんまりはしゃぐなよ」
人がいない大通りを闊歩する俺ら。誰もいない大通りを歩いているとなんだか誇らしい気分になり、普段は出来ないようなことをしてはしゃぐ。それを見て、彼女は呆れながら俺の後をついてきた。
「本当異様だよな。屋台のやつも警備員だってあの演説を聞きに行くなんて」
「それほどまでに計画が進んでいるということだろうな。」
「お前も洗脳のこと知ってるんだな」
「当たり前だ。私を誰だと思っている」
「方向音痴で無一文なやつ」
「それは事実だが、そういうことじゃない。私は快斗の味方だから重要な情報は色々と知ってるんだ。あと、決して無一文なんかじゃない。今日はたまたまお金を持っていなかっただけだ」
それは果たして本当なのだろうか。こいつのことだから、見栄を張っているだけなのかもしれない。
彼女は歩きながら街を紹介してくれた。この街はどうやらだいぶ昔から栄えていたようで、それに加えて教会が出来ると、その繁栄具合は凄かったらしい。街を半周歩き終わると昼を少し過ぎている時間帯だった。ざっと八時間くらい一周に掛かるみたいだ。
「疲れたな」
「そうか?私はまだ全然平気だぞ」
「随分とタフだな。俺に比べて喋ったりなんだりしてるっていうのに」
「まぁ、それが私の取り柄でもあるからな。ところで疲れてるんだったら休憩にしよう。ちょうどあそこにベンチが置かれてる」
日陰の中にあるベンチに座り、一息つく。常々、歩き過ぎだなと思う。明朝に山に登って朝にここについて休む暇もなく四時間ぐらいぶっ通しで歩いている。それでも多少の疲れで済んでいるのは魔力が自分の中を巡っているおかげかもしれない。魔力というのは不思議で不可解である。疲れを感じにくいのだってただの思い違いかもしれない。
「魔力って一体どういうもんなんだ?」
「急にそんなことを聞いてくるか」
「あぁ、すまん。確かに急だったな。ほら、俺って結構歩いてるけどそこまで疲れてないから、それも魔力のおかげなんかなって思って」
「魔力には治癒の効果もあるから、そうかもしれないな。それに快斗は元々魔力を持たなかった身だから、その治癒の効果も顕著になってるんだろう」
「なるほどな」
「それで最初の質問に戻るが、実際私にも魔力がどういうものなのか分からない。何せ生まれつき持っていて、それが当たり前であったからな。だから、その根源、魔力がある意味というのよく分からないのだ。それでも、魔力を洗脳のために使うのは間違いだということは分かる」
「魔力で洗脳してたのか?」
「あいつらに聞かされていなかったのか?」
「冒険者協会でなんかしたら洗脳にかかるっていうのは聞いたな」
「確かに洗脳をする上でそれは欠かせないことだが、その洗脳を四六時中やろうと思うと効力が弱すぎていつ切れるか分からない。だから、教皇は魔力を原動力としたずっと洗脳させる装置を作った」
「魔力って使いすぎるとヤバいんじゃなかったっけか」
「あぁ。時に死に追い込むほどにな。だから、教皇は快斗も持っているあるものを使った。それが何か分かるか?」
俺の持っているもので可能性があるとするのなら一つ心当たりがある。
「魔石か?それでもこれは高価って聞いたぞ?」
俺のポケットに一個入れてある魔石。天音に渡された時に言われたがこれ一個で億は付くらしい。
「それが高価になる原因として希少性が挙げられる。今はもう教会が魔石採掘を運営しているため市場に出回ることはないし、全て洗脳装置の動力に与えられるからな」
「それでも魔石に限りはあるだろう?ずっとそうしてることは出来んだろ」
「まぁ、確かに限りはある。それでもあと一千万年は平気と言われているから、その間に色々な方法を模索するだろう。それに教会側はまだ一千万年あると楽観視している。装置が止まって洗脳が解かれるということはほとんどないだろうな」
「だったら、教皇を倒すよりもその装置を壊した方が早くないか?」
「そこの装置がある場所は深淵と呼ばれる地下深くの場所だ。それに厳重な封印がされてあるから無理だろうな」
「お前とか天音たちでなんとかならないか?」
「あいにく私たちは深淵に歓迎されていない。行くことすら出来ないだろうな」
天音や朱音の実力は申し分ないほどだが、それでも無理となると俺でどうこうできる話ではないのだろうな。
「話せることは以上だが、他に何か質問あるか?」
「いや、ないな。ありがとう。色々教えてくれて」
「なに気にするな。私は快斗の味方が答えられる質問なら喜んで答えよう」
質問し終えると少し休憩した後にまた俺たちは歩き出した。この街を一周する頃には街は赤く染まり始め、人の流れも次第に変わっていった。
「夕飯は何にしようか」
「適当な屋台のところでいいんじゃないか」
「それもそうだな」
「まぁ、また俺が払うことになる以外は別にいいだろうな」
「まだそれを言うか。確かにそうなってしまうが」
夕飯時、近くの屋台で料理を何個か買って宿に戻る。
「この後はどうするんだ?」
「普通に寝るけど」
「外でか?」
「んなわけないだろ。部屋で寝るよ、ちゃんと」
「え!?でも、家に長時間居続けると死ぬんじゃなかったのか?」
「……それは嘘だ」
急に変なことを言い始めるから何かと思えば俺の嘘をまだ信じているようだった。確かにこの嘘は嘘と明言してないが、普通は信じないだろ。
「あの短時間でどれだけの嘘を言ったというのだ」
「それぐらいだから、他は気にしなくていい」
「そうか。でも、残念だな。夜に特訓でもしてやろうと思ったのに」
「お前ってやっぱタフだよな。一日中歩き回ったのに特訓しようだなんて。まぁ、でも実際時間がないから早めにやっておいた方がいいんだろうな」
「そうだろう?少し休憩して完全に夜になってから行くとしよう」
「分かった」
「あとこれを飲んでくれ」
「なんだ、これ」
「私秘伝の元気になれる飲み物だ」
「あんま飲みたくないんだが」
「安心しろ。ただ、疲労を回復して眠気を覚ますだけの飲み物だ」
「安心できんが」
突然渡された謎の飲み物。彼女の説明を聞いてもなお飲むのを躊躇ってしまうが、せっかくくれたのだから飲んでおこう。
「まっず!」
「あぁ、そうだろう?でも、良薬口に苦しという。だからはそれは良薬だ」
「んな訳あるかよ」
絶対そのことわざ理解して使ってないだろ。吐き気に催されながら、なんとか飲み込む。俺は一気飲みした後悔に駆られながら、涙目で彼女の方を向いた。
「まぁ、味はあれだが効果は保証してやる。きっと夜には元気になってることだろう」
「信じないからな。俺は」
今のでこいつのことを信用できなくなった。
「それじゃあ、時間になったら私が部屋のほうに行くから」
「分かった」
いまだに舌に残る苦味に顔をしかめながら、俺は自室に戻り、ベッドに横になる。今日一日中歩き回ったというのに不思議なほどに眠くない。これも彼女の飲み物のおかげなのかと思うと少し癪だ。
「寝れねえなー」
ベッドでゴロゴロしていても寝ることが出来ずにそう溢すと同時に扉がノックされた。
「私だ」
「もう行くのか?」
「そうだ。それで疲れとか眠気は大丈夫か?」
「不思議なことに平気だな」
「ほらな。私を信じて正解だっただろ」
「なんか癪だな」
信じていなかったからこそ、この効果が本物だと思うと少し癪だ。
「ところで特訓ってどこでやるんだ?」
「森の中だな。そこだと誰にも見られないだろうし」
宿を出て前を突き進む彼女に聞くが、この方向音痴についていって本当に目的地に辿りつけるのかが心配だ。
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