第20話 デリーという街

「着きました!」


 険しい山を越えて到着したデリーという街は、前の街サイアントとは比べ物にならないほど発展していた。最高権力者がいる街はどこも発展しているのだろうか。


 この街の構造は結構シンプルだ。中央にデカい教会があり、それを囲うようにして大通りが出来て、教会の近くには学校や消防などの公的機関が軒を連ね、外側にはホテル、民家があるような感じだ。前の街と比べたら華やかであることには違いないだろう。


「さて、ここに着いたわけだが、どうするんだ?」

「まずは宿を確保しましょう。私の知り合いが経営している宿が近くにあるので。ついてきてください」


 そう言って天音は、慣れた道を歩くか如くスタスタと大通りから一歩外れた薄暗い路地裏を歩き始めた。わざわざこんなところに宿を構えるあたり、繁盛するのが目的ではないのが窺える。


「失礼しますよ」


 天音が足を止めたのはただの家だった。家の前に宿と分かるようなものはなく、普通の家のようで、躊躇いもなく入っていく天音に俺は心配になった。


「大丈夫なのか?宿っぽくないけど」

「はい、それが彼女の宿の特徴なので。そこの扉を開ければ彼女がいますよ」


 なんの変哲もない扉を開けるとそこには机に足を置いて重厚そうな椅子にふんぞり返っている行儀の悪い奴がいた。


「遅い」

「はいはい、すいません。それでなんでそんな行儀悪い格好でいるんですか」

「カッコいいだろ」

「カッコ悪いです。それがカッコいいと思えるのなら、あなたの感性はまだ幼稚ですね」

「……そんな言うなよ」


 天音の言葉にボコされた彼女は机から足を下ろして姿勢をピンと立てた。その自然な仕草からそのキチンとした姿勢が根付いているようにも見えたが、あんな格好をするということは少なからず天音が言ったように子どもみたいなのだろう。


「これは鍵だ。一番奥の部屋の鍵だから間違えるなよ」

「はい、ありがとうございます。では、また」

「ああ」


 ここの宿は外観の割に中は広い。長い廊下の突き当たりを左に進むと渡された鍵で開く扉が現れる。


「せっま!一人用じゃねえか、これ」


 部屋は一つのベットがほとんどを占領していて三人入れば、その狭さはより顕著に現れる。


「まぁ、どうせ私たちはこの後別れますので、気にしないでください」

「そうなのか?」

「はい。少し用事がありますので」


 用事とは何かと深くは詮索しないが、初めての街で一人取り残される俺の気持ちも考えて欲しい。


「ところで、いつ教皇を倒しに行くか話し合いましょう。私的にはできるだけ早めがいいですね。長く滞在するメリットはあまりないですし」

「計画も何も出来てないし、攻撃手段もほとんど持ってない俺が早めに行ったところで無惨に散るだけなんだが」

「流石に一週間ぐらい必要ですか?」

「もっとくれ。一年とか二年とか」

「では、一週間後に決行としましょう。その間に色々と策を練っておいてください」

「おい、俺の意見も聞け」

「だいぶふざけてるみたいなので余裕なのかと思いました。でも、一週間ほどが十分な時間だと思いますよ」

「一週間で対策を練れと。ブラックもブラックだぞ、そんなの」


 一週間で何ができるというのか。その無理難題を言い渡された俺は、それでも頷いた。


「時間があまりないというのはあなたも分かっているはずです。昨日あなたがいなくなってから教会もきっと動き出したはずですし、一週間ほどが私たちに与えられた猶予だと思います」


 これはここに来る途中にも言われた。きっといなくなった俺を教会側が探すだろうと。そんなに察知能力は高くないだろうと思うが、この世界では何が起こるか分からない。今俺の位置が丸わかりかもしれないし、何事もないのかもしれない。


「一週間って言ってもな、ここに来るまでに一日もかからないだろ。それにほとんどが敵なわけですごい数の人間に探されるってことだろ。普通に考えてヤバいことだからな」

「そこはなんとかしますよ。この世界の連絡はかなり原始的で手紙を使います。それもあの街からこの街までの手紙が配達されるルートは固定されてるので何かしらの方法で足止めすれば一週間は時間できるでしょう」

「信用するぞ」

「はい、任せておいてください」


 それが天音がさっき言っていた用事ということか。ただ、連絡網を遮断したところで猶予はそこまで増えるわけでもない。一番現実味があるのが一週間というわけか。


「では、快斗さん。また一週間後にお会いしましょう」

「じゃあな」


 そう言って二人は出ていってしまった。一人になった途端に静かになった部屋に寂しさを覚える。

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