第19話 次の街へ!

「ぜぇぜぇ。はぁはぁ」


「どうしたんですか、快斗さん」


「ちょっと待ってくれよ。歩くペースが早すぎる……」


「はぁ。朱音、快斗さんの隣にいてください。私は周りの安全を確認しに行ってきます」


「はいはい」


 俺は今、元いたサイアントから次の街デリーへ向かっている最中だ。その街には一人目の教皇がいるということだった。


「君ってもう魔法の扱いには慣れた?」


「まぁな。それに魔石を少し削って飲み込めば、魔力が少量回復するって分かってからはだいぶ管理が楽になった」


「消費魔力が1になるのってだいぶチートだからね」


「異世界から来た特典だな、これは」


 ここ一週間で魔法の理解度はだいぶ上がった。それに消費魔力が一だけのもありがたいことだ。魔法をボンボン撃っても一日で魔力が尽きることはない。転生者の特権とも言えるだろう。


「後、どれくらいで着くんだ?」


「二時間くらい?」


「流石に二時間もこんな山道が続くってわけじゃないよな」


「さぁ、どうだろうね」


「そこはちゃんと否定してくれよ」


 こんなけわしい山道が後何時間も続いたら俺は余裕で死ねる。


「ところでさ、あの人たちに名残なごり惜しさとかないの?」


「クレアたちに?まぁ、結構ある。色々良くしてもらったし、それに別れの形があんなんになっちゃったしな」


「そっか」


「でも、だからと言ってこの選択が間違ってるなんて思わない」


 ここで後ろめたさを感じているようじゃ、俺は何かを成すことは出来ないだろう。いさぎよくどっちかに吹っ切れた方がいい。


「ところで快斗君」


「なんだ?改まって」


「ん」


「あ?なんだあっちに……って!なんだあれ!?」


 改まって話す朱音は一言だけ喋ってある方向に指をさす。その方向を見ると木の影からノロノロとこちらに向かってくるゾンビのような魔物が現れた。俺は咄嗟とっさに朱音の背後に隠れる。


「君って自分の威厳とかないわけ?」


「今、そう言ってる場合はないだろ。死ぬぞ!?俺が!」


「知らない魔物が来た今こそ、『トレード』だよ」


「あぁ、確かに」


 そういえばそんな便利な魔法もあったな。


『トレード!』


「『複製』って出たな。ところでこいつはなんだ?ゾンビか?」


「そうだね。でも、普通のゾンビじゃないよ。見てて」


 そう言ってゾンビに向かって拾った石を投げる朱音。その石はゾンビに当たったがその当たった箇所からゾンビがもう一体増えた。


「うわっ、なんだこれ」


「インクリーズゾンビって言ってね、切り口から同じようなゾンビを増殖させる初心者泣かせの魔物だよ」


「だいぶ、キモいな」


「そうでしょ」


 当たった箇所から同じゾンビが増えていく様子は気味が悪く、食事中に思い出しでもしたら食欲が失せそうだ。


「ところでどうすんだ、これ」


「ん?ちょっと待っててね。うわー、快斗が死んじゃいそー。誰か助けてー」


 立ち上がって何をするかと思えば感心してしまうほどの棒読みで助けを求める朱音。すると、光の速さで何かの影がこちらに迫ってきた。


「死ねッ!」


 ドゴーーンッ!と耳がぶっ壊れそうになるほどの爆音と共に砂埃が舞う。


「な、なんだ!?」


「快斗、落ち着いて。ただのアサシンが来ただけだから」


 ただのアサシンってなんだよ。こんな火力オーバーな攻撃をするやつがただのアサシンなわけあるか!


「ふぅ、快斗さん!大丈夫でしたか?」


「どうしてお前はそんな凛々りりしい顔が出来るんだ?」


「どうしてって。それは快斗さんをしっかりと守ったからに決まってるじゃありませんか。私はあなたの身を守るためにいるんですよ」


「いや、そうじゃないだろ。見ろよ、そこ。俺たちだってだいぶ死にかけてるんだぞ」


 アサシンの攻撃で元々あった道にバカみたいに縦に長いクレーターが出来ていた。断崖絶壁のふちにいる俺は後一歩でも動いたら死んでしまう。俺を全力で守るに越したことはないし、ありがたいことだが、これで俺が死んでしまったらどうするのか。


「でも、これが一番安全な方法ですし、いざとなったら朱音が守ってくれると思うので」


「僕だってあんな暴走したスポーツカーみたいな速さでこられたら対処できないよ」


「朱音、快斗さん。もう休憩は終わりました?」


「話を逸らすんじゃないよ!」


 自分が不利になった途端、話を変える天音。そりゃあ、あんな新幹線顔負けのスピードでこられたら、朱音はおろか誰も止めることは出来ないだろう。


「……朱音が助けを呼んだから来たんですよ。助けを呼ぶほどの窮地きゅうちに立った朱音の責任ですよ」


「ところで、快斗はもういい?休んだんだったら出発しようか」


「話を逸らさないでください!」


 窮地に立っていたかはさておき、助けを呼んだことは事実だ。二人揃って不利になると話を逸らす。


「というか、何をあんな呑気にしてたんですか」


「快斗に新しい魔法を覚えさせてたの。ちょうどいいだろうし、これくらいはね」


「どういう魔法ですか?」


「『複製』だっけ」


「あぁ、そうだな」


 ウインドウを確認すると『複製』が追加されているのが分かる。


「でも、『複製』って、なんだ?本当に名前のままか?」


「そうだね。一旦、魔石にそれしてみて」


「分かった」


『複製』


 朱音の指示通り、ポケットに入れていた魔石に向かって魔法を使う。すると、虚無から同じ欠け方をした魔石が生まれた。


「なんだ、これ」


「魔石だね」


「……はっ、待てよ!?じゃあ」


「はい、ストップ。今、君通貨にやったら無限に増やせるじゃんとか思ったでしょ」


「な、なんのことだ?俺分かんねー。てか、もう出発しようぜ。俺歩きたい気分だわー」


「話逸らして逃げようとするんじゃない。というか、それ偽物だから。複製した通貨使ったら捕まるよ」


「なんだ、偽物かよ。けっ」


「使えないって分かった途端に態度変えない」


「でも、これ以外に使い道ってないだろ。なんか他にあるのか?」


「あるよ。というか、外道げどうな魔法を僕が教えるわけないでしょ」


 『複製』という魔法。偽物を増やせることらしいが、不正が出来ないとなると何に使うのか全くわからない。


「この魔法は、他の魔法にも使える。だから、君がファイヤーボールを放った時にそれを使えば、全く同じファイヤーボールが飛んでくる。まぁ、複製した方の攻撃に殺傷能力はないからあくまでも騙すために使うやつだね」


「なるほど。そんな使い方があるのか」


「そんな使い方しかないからね。絶対に通貨とか複製しないでよ」


「分かってるって。捕まるんだったら普通にしねえよ」


 これで本物とかになってればな、わざわざ危険を犯して冒険して報酬を受け取る生活っていうのもしなくて済んだんだけどな。


「よし、説明も済んだことだし、再出発だよ!」


「おー!いざ次の街へ!」

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