第17話 裏切り者の正体

「カイト、遅かったね」


「あぁ、だいぶ手間取ったな。そっちはどうだ?」


「こっちは終わったよ。そっちも終わってそうだし、殲滅完了だね」


「あぁ、無事に終わってなりよりだ」


 俺はあのことを伝えるか迷った。ただ、魔物を助けていた以上、敵で間違いないだろうし、クレアたちが知っておいて損はないだろう。


「あ、カイト見て見て。司祭がお見えになったよ」


「……ッ!」


 俺はクレアにあのことを話そうとした。しかし、クレアが視線を向けた先を見て俺は驚愕きょうがくした。


「どうも、皆さん。こんにちは。この度は魔物の侵略を防いでくれたこと心より感謝します」


 大衆に演説している司祭こそ、あの時魔物を回復させていた人物であった。

「皆さんが活躍してくれたことを非常に嬉しく思います。しばらくはこの街も平和でしょう」


 高々たかだかと演説した彼に向かって聴衆は歓声を上げた。クレアも便乗びんじょうして喜んでいるが、俺は素直に喜べなかった。俺はあいつの本性を知っている。ただ、この秘密を伝えていいのか迷った。情報を共有することは大事だが、この情報には危険がある。信者たちはこの情報を本当だと思うのだろうか。


「そういえばさっき何か話そうとしてなかった?」


「いや、すまん。忘れた」


「なにそれ」


「まぁ、いいだろう。忘れたってことは別にそんな大したことじゃなかったんだよ」


 今は言わないでおこう。もし、何かあればその時言えばいい。まだ慌てるような時間じゃない。


「もう帰るか。ちょっと俺疲れたわ」


「流石に今日は疲れちゃったし、そうしよ。どうする?明日も休みにする?」


「いいよ。まだ半日は休めるんだし」


「そっか。じゃあ、明日から始動開始だね」


 今はここから離れるだけで十分だ。あの司祭のことについてはおいおい考えよう。


「ちょっと俺寝る。起こさんくていいからな」


「うーん、分かった」


 気持ちを整理するというわけではないが、俺は宿に着くなり布団に潜った。流石に疲れた。


 目をつむって考え事をしながら、夢の中へと意識を放り投げた。

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