第16話 裏切り者
「クレアッ!遅いぞ!」
「ごめんごめん。で、状況はどんな感じなの?」
「正門付近で中等級二十体、特等級四体を視認した。特等級の方に超級者三名と、上級者十名を派遣した。あと数分で始まるだろう」
「牧場の方は見た感じ避難できてたよ。あたしたちはどうすればいい?」
「今の所は雑魚の処理を頼む。上等級以上のやつに手間取ってるようだったら、アナウンスする」
「分かった」
屈強な男に
「じゃあ、カイト。あたしの傍にいて。出来るだけ離れないように」
「そんな過保護にならなくてもいいって」
「カイトは知らないかもだけど、クリーチャー・パーティーって毎回負傷者が出るの。それに死者も。あたしはカイトをここで失いたくない」
「分かった。できるだけ離れないようにする」
クリーチャー・パーティーの危険性は俺にと
って未知数だ。ここは経験豊富な冒険者の言うことに従った方がいい。
「ところでグオンとレインはどこにいるんだ?まさか、来ないとかないよな」
「遅れてくるんじゃない?レインを教会まで送らなきゃいけないし」
「教会?なんでまたそんなところに」
「レインはヒーラーだから、負傷者が出た時に教会で待機してなきゃいけないの」
グオンとの合流は難しそうだな。どうにか会えればいいが。
「隊長!そろそろ攻めてきます!」
「分かった。各員、戦闘配置につけえッ!!」
ドタドタという音、地面の揺れ。それが徐々に大きくなり、近づいてきている気がする。いよいよ、クリーチャー・パーティーが始まりを迎えようとしていた。
「あたしたちは雑魚敵に集中しよ!」
「ああ」
第一ウェーブといったところか。招集され冒険者よりも少し多いほどの数。しかし、その圧力は凄まじいものだった。
『ライトニングブレス!ライトニングブレス!』
「雑魚敵でもだいぶ堅いなッ!」
俺たちは上等級を二体倒した功績がある。だからか、防衛線の先頭にいるが、洞窟で戦ってきた魔物よりも若干硬く、魔法だけでは倒しきれない。他の冒険者も苦戦しているようで、魔物が増えるごとに撮り逃す数も増えていった。
『ウインドウッ!ファイヤッ!』
その中で目覚ましい活躍をしているのはやはりクレアだった。初心者を助ける活動をするほど自分の実力を自負しているクレアは安心感が違う。
「カイト!今の所平気?」
「あぁ。なんとか」
第一陣が終わったのか、魔物はめっきり来なくなった。なんとか持ち堪えたものの俺を含めた他の冒険者はもうすでに
最初でこんな疲れるんだったら何回も来られると流石に破壊されかねない。そう思いながら体勢を整えた時だった。
『……につ……ぐ。上……等……級に…く……』
「うん?何今の」
「分からんが、なんかまずそうってことだけは分かるぞ」
「アナウンスが聞こえづらいのは遠くに行っているせいか、それか……。でも、場所報告がないんだったら、助けれないし」
「お、おい!あれ!」
途切れ途切れの音声が聞こえ、一抹の不安に駆られる。遠すぎて聞こえなかったというのが一番ありがたいが、別の理由だって考えられる。その原因を掴めぬまま、ここにいると門の方から絶望が押し寄せてきた。
ドラゴン型の魔物は他の魔物とは桁違いの体躯で、その威圧感から尻込みしてしまう。そしてさっきとは比べ物にならないほどの魔物の数。確実にこの戦いを終わらせにきていた。
「クレア。あれって」
「そうだね。上等級の一個上、特等級の魔物だよ」
「まずい、よな?」
「だいぶまずいね。特等級を止めてた冒険者から何も連絡がないし。気をつけなきゃいけない」
上等級は二回見たことあるが、特等級ともなるとその桁違いさに驚く。こんなやつを俺たちで倒せるだろうか。
横を見ると数え切れないほどの冒険をしてきたクレアでさえ、手が震えていた。それぐらいの威圧があの魔物にあるんだろう。
「クレア」
「……ん?何」
「大丈夫だ」
「うん。そうだね」
本当は魔物に背を向けて全力で逃げたい。ただ、周りが勇敢に立ち向かおうとしている以上、俺に逃げ場なんてない。
「カイト!行くよ!」
「ああ、いいぞ!」
特等級。それがどれほど強いのか見せてもらおうじゃないか!
最前線の冒険者が特等級の方に向かうのを見て俺らも特等級に近づいた。
近づけば近づくほど伝わってくる特等級の威圧。しかし、ここまで来てしまったらもう仕方がない。
『ライトニングブレス!ファイヤボールッ!』
こういう強敵は目を潰したほうが早い。魔法はしっかりと目に当たったが、痛がる素振りを見せずに普通に反撃してきた。
『ギャアスッ!』
『予測回避ッ!ファイヤボールッ!』
腕をブンッと素早く振り回して攻撃する魔物に俺はギリギリのところで後ろに飛んで回避する。
『ライトニングブレスッ!』
「クソッ!全然効いてる気がしねえ!」
他の冒険者からも攻撃を喰らっているはずの魔物は魔法が効いてないのか、倒せる気配なんて微塵も感じられない。
「ふぅ、はぁはぁ」
『予測回避ッ!』
どんどんと増す攻撃の激しさ。回避するだけで体力がゴッソリと持っていかれる。もはや、攻撃どころの話ではなくなってきた。
「まずい……」
「カイト、危ないっ!」
体勢を崩す。それをチャンスだと思った魔物は手を広げて、腕を振った。クレアの叫び声が聞こえる。
『ドーンッ!』
「カイトッ!」
「……遅かったな、グオン」
視界が悪くなるほどの砂埃が舞う攻撃の衝撃。グオンが駆けつけてくれなかったら俺は今ぺちゃんこになってたことだろう。
「すまない。違う場所の魔物を対処していたら遅れた」
「それよりも大丈夫か?モロに喰らったようだけど」
「全身の骨にヒビが入ったな。今から粉々になるだろう」
「冗談が言えるってことはだいぶ大丈夫そうだな」
特等級の魔物の攻撃というのは未知数だ。だから、心配したが問題ないみたいだった。
「カイト、行けるか?」
「あぁ、任せろ。お前が来てだいぶ強気に行ける。見てろよ!」
俺は手を広げて叫んだ。
『ライトニングブレスッ!!』
天から下る一つの眩い光の柱。その勢い故にゴーッとバーナーから炎が出ている時のような音が聞こえてくる。
音と共にその光の柱は消えていった。すると、さっきまで道を占拠していた特等級の魔物は跡形もなく消えていた。
「え?」
一瞬の困惑。しかし、それとほぼ同時に歓声が湧き上がり、実感を得た。
「スゲェ!」
「今のなんだ!?」
「誰が倒したんだ?」
冒険者の興奮は止まることを知らない。各々、特等級の魔物がいなくなったことに驚き、誰が倒したのか聞いていた。
確かに誰が倒したのか。俺とて攻撃はしたもののあんな威力出せるはずないし、倒した感覚もなかった。じゃあ、誰が……。
「今のカイトなのか?」
「いやいや、俺じゃねえって!分かるだろ、俺があんな攻撃できないってこと」
「隠し持ってる可能性……」
「だったら、もうすぐ使ってるわ!それに俺一回死にかけたんだぞ。そんな危険を顧みてまでやらないからな」
グオンは俺を疑ってるようだがそんなわけない。一回死にかけたわけだし。他の誰かだとは思うが。
「カイト!凄かったね!」
「おぉ、クレア。って、お前も俺の功績にしようとしてるな」
「ん?そうじゃないの?だって攻撃してたのカイトだけだったよ」
「んなわけあるか。俺があんな高威力の魔法撃ったことあるか?」
こっちに寄ってきたクレアも俺を疑っているようだった。一緒に冒険をしている二人なら分かることだろうが、俺があんな攻撃を出したことがあっただろうか。
「洞窟のドラゴン倒した時もあんな感じじゃなかった?と言うか、あの時深くは聞けなかったんだけど、あれってなに?」
「いや、あれは俺も知らんが。……天罰。悪いことしたから神が裁きを下したんだろ」
「なにそれ」
「とにかく、まだ中等級の魔物がいる。そいつらを殲滅させるのが先だ。行くぞ!」
この話は俺にとって不利だ。話題を逸そう。
特等級は倒せたものの、まだ中等級の魔物はいる。特等級に悪戦苦闘したせいで中等級の魔物は街にバラバラに広がっている。特等級を倒せた喜びを分かち合うよりもまずは街の安全を確保するべきだ。俺たちは手分けして魔物を殲滅することにした。
「ふぅ。これで十体目。数が数だから、流石に疲れるな」
街中にいた魔物はというと、特に危害を加えるわけではなく、ただ、徘徊をしているようだった。
『ファイヤボールッ!』
「クソッ」
疲れが出ているのか、魔物を逃してしまう。俺も気が付かれないように後を追い、なんとか仕留めようと試みた。
「なんだ、あれ?」
魔法を放とうとすると人影があることに気がつき、俺は木の裏にひっそりと隠れた。
「こんなに弱ってしまって。次も使おうと思っていたのじゃが」
『ヒール』
「……!」
そこには驚きの光景があった。
負傷している魔物をヒールで回復する人の姿があったのだ。
俺はすかさずクレアからもらったカメラでその現場を撮った。これはどういうことだ?意味が分からない。なんであいつは魔物を手助けするようなことをしているんだ?
「そこにいるのは誰じゃ!」
まずい!証拠も撮れたことだし、ずらかろう。俺は足早に此処から去った。
「ふむ、あやつ……」
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